BL小説集
□トロイメライ
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ああ、ついに夜が明け、この日が来てしまったか、とフリードリヒはぼんやり考えていた。
寝台から周りを見渡せど、心の拠り所たる、ロメンラルから共に来た侍女たちはいない。
婚礼儀式の前に、故郷に帰ったのだ。
泣けど喚けど、今日がその婚礼儀式。
王の妃として、子を成し、時代への礎となる。
はて、それは礎というほどに大層なものだろうか。
フリードリヒは、神憑きという幸運を背負うた人身御供。
これからは、王の道具、国の贄となるのだ。
そのことを再確認し、フリードリヒは眠りについた。
「フリードリヒ様っ!おはようございます!早速準備いたしましょう!」
が、すぐさま起こされた。
「……はあい」
あまりの眠気に、抵抗する気さえ起きないフリードリヒは、従順に寝台から降りる。
侍女たちに化粧台まで引っ張られ、髪を梳かされ、服を脱がされる。
不快ではないが、何やら操り人形になった気分だ。
アルヴァの国旗の色である、赤と黒の軍服を着させられる。
落ち着きのある濃紅の地は、そんなに派手ではない。黒のラインや釦も相まって、式の主役にしては簡素な方だ。
軍事国家一歩手前とは聞いたことがあるが、こうも質実剛健とは。かつてフリードリヒの兄が軍の式典用だと見せてくれた礼服は、とても豪華で美しかったことを思い出す。
「ふふ、お似合いですわ」
「んと、ありがと……」
いつもとたいして変わらない気がしたが、褒められたので素直に礼を言う。
「フリードリヒ様、帯剣はできますかしら?」