BL小説集
□トロイメライ
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婚礼儀式を前に、アルヴァの儀礼を覚えねばならぬのだが、その勉強はとんとうまくいかない。
よりにもよって、フリードリヒは文字の読み書きができないことが判明したのだ。
「どうしてこんなになるまでほうっておいたんだ!」
「エリッサ、怖い……あと僕、病気じゃない」
「も、申し訳ありません。ですがせめてご自分の名を書けるようにならないと、後々困りまする」
甘やかしていたのか、放置していたのか。真相はともかくとして、妃としてこれはまずい。
エリッサはロメンラルの侍女たちを叱り飛ばし、筆記具と紙を用意した。
「まず簡単な文字と、ご自分の名前を書けるようになりましょう」
「……うん」
めんどくさげな表情ではないが、エリッサは一抹の不安を覚えた。
「フリードリヒ様、手が止まってましてよ」
「……んあ、ごめん」
よだれを拭い、再び作業を始める。
幼少の頃に覚えるべきものを、歳を経て叩き込むというのは至難の業だ。
文字以外にも、儀式の段取りや口上を覚えねばならない。
眠りに誘われてしまうフリードリヒでは、通常の何倍もの時間がかかった。