BL小説2
□due
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シャル・キンは良き両親と、理解ある兄にたいそう愛されて育った。
信仰心深い父親の影響により、彼は神と対話するための修行を行っていた。イシュタルの力を器用に扱えるのはそのためだ。
キエンガ人の間に伝わる測定法により、海の天候や波の高さを予測し、港管理を営むチェンニーニ家と提携していた。
それがうまくいっていたのも、先代がキエンガ人排斥に走るまでだ。
ほとんどのキエンガ人は他の土地へ移ったが、土地に愛着がある父親は、頑固にも居残り、漁師に助言していた。
「金にもならない助言などして、何になるのだろうな。お前に本の一冊でも買ってやりたいのに」
「船曳きよりはずっといいし、僕はこれで十分です。足るを知れと、昔からよく言います」
金策に走る必要があった兄は、シャル・キンに算法を教える傍ら、辻馬車の御者などをしていた。
シャル・キン自身もチェンニーニ家の庭で下働きをしていた。それもこれも、母親が新しい命を宿したためだ。
貧しくはあるが、家族が増えることはとても喜ばしい。そのために働くことは、全く苦ではなかった。
「にいや、お外遊びに行こうよ」
御者と馬車馬の様子を見ていたジェラルドは、朝っぱらからのその要望を完全に無視した。
「にいや〜、お腹空いたーもー」
「旦那、すみませんが坊っちゃんをお願いしますよぉ。おれが話しかければ叱りを受けますし、サウロさんがいないとやりづらいったら」
御者も、厄介ごとそのものな貴公子とは関わりたくないのだろう。なんとか理由をつけてジェラルドに押し付ける。
「勝手に食え。仕事の邪魔をするな」
「だってぇ、なんにももらえなかったのお。お肉とかお魚ばっかでやだしい」
顔面を海に突っ込んでやろうかと思わないでもないが、ジェラルドはとにかく無視した。
「にいやぁ、にーやーぁー」
「旦那、ほんとお願いしますって……」