BL小説2
□弐
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剛崎は座ったまま壁にもたれ、ひどく汗をかいている。息も乱れ、苦しそうだ。
こんな状況でも、大太刀からは手を離さない。
「熱かしらって思ったのだけど、身体が冷たいの。貧血だったら、なにか食べてほしいのに……」
ギドは手の甲を白い額に当てる。確かに、やたら冷えている。振り払う手も弱々しい。
だが、多くの矢を受けても動き回れる魔女が、たかが首の怪我でこうもなるだろうか。
<医者は>
「将軍様が、絶対に呼ぶなって。兄さん、なんとか説得して」
ギドはうんうん悩み、サラに出ていくよう言った。妹は躊躇したが、気替えだけを置いて退出する。
それを察してか、声良鶏(こえよしどり)が出てきた。
<どういうことだ。まさか俺の槍が>
『否、限界が来たというだけのこと。気に病むな、あと数日もすれば我らは死ぬ』
意味が解らない、なぜ突然、死の宣告をされねばならないのか。ギドは説明を求め、床を叩いた。
『そもそも朽ちかけの身体を、誤魔化し使っていた。
此方の魔女は少し調整が難航でな、予想外に消耗してしまった。あと一月は保つつもりであったが』
<どうにかできないのか。頼む教えてくれ>
『……魔王ならば、あるいは』
「黙れ糞チャボ」
それまで黙っていた剛崎が、ぽつりと悪態をつく。
「俺は魔王に頼る資格はねえ。
……それより、オイ、首はなんともねえのか」
首を怪我しているのはあんたですよ、と言いかけ、ギドは気づいた。大丈夫と笑いかけて、何事もないと示す。
「そうかよ……。悪かった、戦争馬鹿は俺だ」
理性を失い、暴走したことを本気で悔い、猛省しているようだ。実は優しい人だと気づき、ギドはますます剛崎に好感を持った。
ギドは剛崎の頬に手を伸ばし、指先で白髪をかき上げた。
<大丈夫、俺は諦めない>
不思議と、剛崎は触られても嫌悪感は無かった。慣れてしまったのだろうか。