BL小説2
□;[Sanctus]
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この王は、その心のままに事をおこない、すべての神を越えて、自分を高くし、自分を大いにし、神々の神たる者にむかって、驚くべき事を語り、憤りのやむ時まで栄えるでしょう。これは定められた事が成就するからです。
――ダニエル書 11章36節
エバ王女との会談を終えた後、エマヌエルは再び宗主に呼ばれた。
「ベリアルの復活となれば、また神学大全の頁を追加せねばな」
上機嫌にペンをはしらせ、宗主は書き物をしながら会話をする。
むせ返るほど焚かれた香に吐き気を催しながら、エマヌエルは今後の意思を示した。
「私は……王女殿下の仰る通り、司法の裁きを受けるべきでしょうか」
「その法に、教会は関与している。死刑などさせぬ」
「御身は、何故それほどまでに私を……魔王を必要とするのですか?御身の偉大なる力は、私の及ばないもののはずです」
「勘違いをするな。吾らは互いに干渉できぬだけだ」
つと、宗主はペンを置き、車椅子を動かしてエマヌエルの方を向いた。
自嘲するように笑い、ただ一言頼んだ。
「魔王よ、吾を殺すことはできるか」
「……っ、私に、頼むよりも……」
「魔女どもは吾に手出しできぬ。人の子だけが吾を傷つけることはできても、死には至らぬ。だが世界の理そのものとなった汝であれば、吾のよくわからぬ因果も断ち切ってくれようぞ」
「なぜ……そんなことに……」
「恐らくはあの時、扉を開けてしまったからだ」
エマヌエルは痛感した。宗主はとっくに狂っている。永い孤独と闘争は、普通の人間に耐えうるものではないのだ。
宗主の言動が時たま不可解であったり、独り言が多いのは、彼の記憶が脳の限界を超えていることにある。
魔女が永くを生きようと、正常な精神を保っていられるのは、不要な記憶を神が預り、必要に応じて引き出すよう調整しているからだ。
だが宗主は実のところ、ただの人間だった。
ここで終わらせるのが慈悲なのだろう。だがエマヌエルは知ってしまった。魔王として、この世の全てを理解しかけていた。
「御身は……ここで死ぬべき人では、ありません」
「……何ぞ、吾に死を謳歌するより、呪詛を吐いて生きろと言うか」
宗主という男は、もう充分に苦しんだのだろう。だが彼に戒律という生を押し付けられた魔王エマヌエルは、そのお返しのように生きる意味を与えた。
「御身はきっと“眼”なのです。全ての魂を鎮めるまで、御身に膝をつくことは許されません」