BL小説2
□_Dies=irae
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すべて戦場で、歩兵のはいたくつと、血にまみれた衣とは、火の燃えくさとなって焼かれる。
――イザヤ書9章5節
曇天に、雪がちらちらと舞う。
雪かきの行き届いた港に、大型船舶が止まる。
錨は下ろされたが、まだ中からは誰も出てこない。
船は軍船だった。砲門は使い込まれており、これでいくつの船を沈めたのだろう。
立派な船を、日雇いの水夫らは物珍しげに見上げる。
大陸北方を統べるリウォイン王国は、流れつく氷塊により、海路を使うことは少ない。
この港とて、鮭を捕る漁師たちのものだ。
最大の敵国であるアルヴァも、大陸で地続きになっているため、山岳攻略を優先している。
ではこの船は、どういった経緯のものだろうか。
人々の疑問は、大型四輪馬車の登場により、掻き消される。
リウォイン王家の紋章を認め、水夫や漁師は、蜘蛛の子散らすようにその場を後にした。
リウォイン王家の紋章を背負うは、この世においてただ一人。
白鷺の魔女とも呼ばれる、国を恐怖で支配する女王が、何故だかこの港に来ていた。
よほど秘密裏なのだろう、水夫らは誰も噂を知らず、むしろ見なかったことにしようと口裏を合わせた。
魔女は呪いを振るい、裏切り者や気に入らない側近は、たちまち殺してしまうのだ。
馬車の窓から、女王が船を見る。
傍らの、灰に汚れた白い鷺(さぎ)が、彼女にどんな船かを教えた。
船から人が出てくる。
錆色の兵服は、リウォインのものではない。
神輿に担がれ、青い礼装の女が出てきた。
服の裾は長く、手や足の先は隠れている。
豪奢な金髪を結い上げ、過剰な化粧を施した女は、にこにこと楽しげに笑う。その胸に、一羽の人鳥(ペンギン)を抱いている。
昼下がりの散歩にでも出かける、貴婦人のような暢気さがあった。