BL小説2

□ふたつ
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 ええと、とキサラは必死に頭を廻らせ、聞いたことを整理する。

「つまるところ、教会がここを管理していたのは封印を守るためで、よりによってウッコ神が、それを解いてしまった、と」

「封印に関しては、吾の管理にしよう。もう神になど頼らぬ。
さて次は汝だ。汝は吾の元へ戻り、何を成したいのだ?」

 逡巡したが、宗主が促すのを見て、キサラはゆっくりと口を開く。

「僕は、家族の元に帰りたいです」

「至って凡庸な、しかし困難な願いだな」

「ここに来る道中、魔女に会いました。そして森に、結界が張られていると聞きました」

 結界を張り、キサラを森に閉じ込めているのは、他ならぬ宗主だろう。しかしキサラは、それを糾弾しない。

「宗主、僕は人の体ではないのでしょう?
ですが貴方は元に戻す方法を知っているはず。でなければ、僕の前に現れない」

 宗主は笑い、歓迎するように両手を広げた。

「聡明で結構。汝には神域に行ってもらう」

「神域……」

 神々のおわす地。古来より様々な名をつけられた、伝承上のみにある場所。

 しかし、餓えた獣も神も実在しているのだ。神の世界があっても不思議ではない。

「神域とは現世の裏側、魂ともいえる側面だ。そこで獣を昇華せよ」

「昇華……?」

「そうとも。我らは無から有へと流れる、ひとつの線だ。どのような生物も、いずれは熱的な死を迎える。これは神だろうが世界だろうが抗えぬ」

 宗主は手首から銀の連なる輪を外し、示す。

「しかし獣は、どの生命発生条件も満たしていない。現象ですらない。線ではなく、無から有へ、有から無へと繰り返す円だ。
つまりは死がない」

 力を込め、銀の輪を千切る。

「かつてゲオルギオスは自らの身体を媒介に、力を大地に還した。それと同じことをせよとは言わないが、昇華さえすれば汝は家族の元へ帰ることができよう」
 
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