BL小説2
□ふたつ
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かつて、言葉や文化は散り散りで、ただそれだけの理由で人々は争っていた。
世界は神々の正しい力により、飢えや災害とは無縁だった。
ただ人々の言葉の混乱から起こる争いが、人を苦しめていた。
しかし、ある青年の開いた教えの家――今で言う学校が、その連鎖を少しずつ変えていった。
青年は聡明だが、何より彼の師である魔女の助けが大きい。
ある出来事を皮切りに、教えの家は“教義学術振興会”と名を変えて、神の教えと教育を普及する組織となった。
「――とまあ、教会の成り立ちぐらいは知っておろう」
「ええ、まあ……」
滔々と語りだしたかと思えば、それは教会の設立理念だった。
争いのなき世のために教育を。教祖にして誠実なる騎士ゲオルギオスの思想は、キサラも共感し賛成している。
「まあ問題はそれ以降だ」
ゲオルギオスは奇跡の力を持っていた。その奇跡を真似しようと、信徒の一派が画策した。
さる魔女を贄に、新たに神を生み出そうとしたのだ。
「そんな、畏れ多い……」
「しかし驚いたことに、理論は間違いではなかった。世界の構造も単純なものだ」
宗主は獣を見る。威嚇に剥き出される牙をものともせず、どこか自嘲めいた笑みを見せる。
「魔女の死を拒否する思いと、世界の死を呑み新たに生み出す構造が矛盾し、神ではなくただ無意義な力の塊を発生させた」
宗主は獣を指差した。
「力は十と一の意識を持ち、うち九つはゲオルギオスが世界に還した。その残りが餓えた獣、ウリディシムだ」
「ま、待ってください。なぜ教祖は獣を残されたのですか?」
「全てを終える前にだな、怒り狂う魔女らの奸計により、当時の国王に謀反の疑いありとして処刑された。
愚かしいとはまさに魔女どもを指すだろうよ」