BL小説2
□give me back [me]
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寝台を転がって駄々をこねる様を見て、男はため息をついた。
海産に恵まれ、造船業と操舵技術は世界一と賞されるヨシリピテ連合。
ヨシリピテは四つの地域に分かれ、うちマードイニア領は山麓地帯だ。
火山による地熱の効果により、採れる魚介類は他より大ぶりで収穫量も多い。漁師の聖地とも呼ばれる。
マードイニア領候の分家のひとつがチェンニーニ家。その跡取りが寝台の人物、ユニオだ。
確かに噂通りの人間だ。見目はこの世のものかと疑うほどに美しい。
髪は金貨の如くきらめき、青い眼は瑠璃を彷彿とさせる。
陶磁器人形のように、なめらかで白い肌。花弁がごとく愛らしい唇。
いやに整った鼻梁や、長い睫毛は、腕の良い彫刻家が緻密な計算で造ったとしか思えない。
ヨシリピテ貴族の間では“真珠の妖精”“海に落ちた星”と呼ばれている。
「ちっ、ではガラテアと呼ぶ」
「うん、ガラテア=バロック。忘れないで」
だがユニオの持つ幸運はそれだけではない。
彼には絵の才能があった。幼少からそれは発揮されていたが、ある時期に絵に目覚め、以降は画壇にてその天災的才能を振りかざしている。
画家としての名はガラテア=バロック。美の女神しか描かないにも関わらず、買い手は多い。
噂では、大陸の南国の王子があまりにその絵を欲したために、品評会から盗み出したとか。多分嘘だろう。
「貴方は、貴方はなんていうの?」
「お前に質問をする権利は無い」
ただし天は、彼に二物のみを与えた。
「お腹空いたよぉ。ミルクトースト食べたいぃー。あと桃の紅茶とー、クッキーも欲しいのぉ」
ユニオ・チェンニーニは稀代の馬鹿だった。