BL小説2
□give me back [me]
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ぱたぱた、と小粒の雨が舗装された地面をたたく。
男は息を殺し、木陰から道路を見つめる。
一羽の梟(ふくろう)が、林の木々を避け飛び、男の肩に止まった。
ほぉうと鳴き、体毛の水を払う。
「来た」
二頭立ての幌(ほろ)馬車が、青年の見張る道を通る。紋章の無い、一市民向けのものだ。
雨が少し強くなり、男の前髪を雫が伝い、視界を遮る。
ぼろのような外衣を纏(まと)い、頭を隠す。腰帯から短剣を抜き、男は駆けた。
梟が飛び立つ。男は御者に襲いかかり、短剣で喉を撫でるように切った。
手綱を引き、馬を止める。御者を蹴り落とし、幌の中に入った。
中には毛布を被って眠る人物。そして布のかかった絵画が立てかけられている。
男は毛布を剥ぎ取り、状況を知らぬままの人物の胸倉を掴み、顔を確認する。
白い肌に、金髪の巻き毛。まるで白磁人形かと見紛うほど、出来すぎた顔のつくりであった。
「ぅうん〜、じいや〜、おやつはぁ、ミルクトーストがいいのぉー……あれぇ?」
かしこまりました、と返ってくる声が無い。目を擦り起き上がると、全く知らない部屋だった。
粗末な寝台と、古い箪笥と飾り棚があるだけだった。飾り棚に置かれた小さな木の花瓶には、何も入っていない。
「じいやー、じいやー、どこお?」
「お前の従者はここには居ない」
部屋の隅で、中肉中背の男性が椅子に座っていた。
年の頃は二十前後だろうか。赤鳶(あかとび)色の髪に、夏草のような緑の目をしている。
恐ろしいことに、男の眼は、怒りで爛々と輝いている。
だが獲物が油断を待つ肉食獣のように、所作には隙が無い。
「貴方はだぁれ?じいやはどこ?」
「お前の問いなどどうでもいい。
ヨシリピテ・マードイニア領分家第二位、チェンニーニ家次期当主。ユニオ・チェンニーニ」
「違うー、ガラテア=バロックだよお」
「それはお前の画家名だ」
「でもガラテアだもん、ガーラーテーアー」