BL小説2
□金剛不壊
1ページ/42ページ
日が沈もうとしている。宵の白星が、いの一番に輝きを見せた。
橙の光は大地を照らし、進む馬車の影を伸ばす。
ギドは大きく欠伸し、首を鳴らす。
筋骨隆々の大男は、その見目に合わず、穏やかな表情をしていた。
左肩と背中、左頬に彫った戦神の刺青は、彼の誇りであり守護である。気まぐれな神の加護を得るには、身を捧げるのが良い。
浅緑色の髪を掻き上げる。ビーズの髪飾りが取れてしまい、結び直す。
小さな黒板を手に、馬の手綱を引くカイの肩をつつく。
彼は母親は違うが、大勢の兄弟の中でも同い年で、一番仲が良い。
「おう、どうしたよギド。まだ着かねえぜ」
<俺を呼んだか?>
「呼んでねえよ。寝言か?」
黒板に白墨(はくぼく)で筆談するギド。カイとしては、もう五年以上もこれだから、慣れてしまった。
<歌が聞こえた>
「誰も歌ってねえよ」
寝足りなかったかと、ギドはもう一度欠伸をした。声はしかと出ている。
「ギド、起きたんなら、手伝ってやってくれ」
伯父のラートに呼ばれ、ギドは馬車内部に戻る。
中では二人の少年が、布の仕分けをしていた。長い一枚布は重く、広げて品質を見た後は丸めるのに苦労する。
どちらもカイの息子で、年頃になったために三人の馬車で働いている。
彼らは南部アルヴァ王国屈指の、商業民族ポチテカだ。
民の全てが商売に従属し、氏族に分かれて各地を行商する。
その商売は幅広い。服飾、家畜、武器、骨董品、家具――そして情報。
彼らは“ポチテカ商隊”と呼ばれる独特の軍を持ち、健康な男子は皆そこに属する。
アルヴァ王国は多民族国家だが、ポチテカはその中でも特に恵まれた体格を駆使し、兵として働き、各地の情報を集めて売買するのだ。