BL小説2
□α CMa
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「姉さん――」
その時、烏(からす)のけたたましい鳴き声が響いた。
何だ、と周囲を見る。聖堂がみしりと歪み、祭壇の後ろの壁が破られた。
両親を助けなくては思うのに、二人は全く動けなかった。
聖堂を破壊したのは、巨大な四足獣だった。
見た目は狼のそれに類似しているが、とにかく桁違いにでかい。
獣は鳴き声を上げ、自分の存在を誇示した。
「う……餓えた獣」
父親の言葉に、二人は愕然とした。
それはお伽話のように聞かされた。森には神が封じた怪物がおり、そのために人は森の奥に立ち入ってはならないという、教訓。
獣はしばらく周囲を見渡してはいたが、奉じの火を見つけ、口を開いた。
あッ、と思う間もない。獣は炎を食べてしまった。
自らが燃えるでもなく、ごくりと喉を鳴らし、火を呑みこんだ。
しかし、それを嘆く暇は無い。とにかく逃げなければ。
少年は姉の腕を掴む。二人とも震えていたが、少しずつ、足を動かす。
獣が遠吠えをした。凄まじい音量に、思わず耳を押さえる。
嫌な予感がした少年は、姉を突き飛ばした。
振り向けば、獣の涎に塗れた口腔が、少年の目前にあった。
不思議と、姉の悲鳴が遠い。
獣臭さと、胸を貫く牙の固さ。そして吐き出す血の熱さを感じ、少年の意識は閉ざされた。
小夜啼鳥の美しい声が、彼らを慰めるように反響した。