BL小説2
□α CMa
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鬱蒼とした広大な森林。白き樹海とも呼ばれるその地は、一部の採伐場を除き、立ち入りが制限されている。
制限地区の取り締まりを兼ね、採伐場管理をする教会の支部が建っていた。
「姉さん、今日は静かだね」
もうすぐ青年の域に入る頃の、大人しそうな少年が、洗濯篭を持つ姉に話しかけた。
「森はいつも静かよ。今日はお客様もいないし」
どちらも身なりは清潔で、胸には木製の聖印をつけている。
敬謙な教会の信徒であり、姉弟は両親と共に、この地で暮らしていた。
「だって、鳥のさえずりもない。ちょっとおかしいよ」
「んー……そうね。でもとりあえず、洗濯物を干すのを手伝って」
遊んでばかりいることに釘を刺され、少年は摘んでいた花を地面に置いた。
この時、鳥はおろか、虫の鳴く音すらしないことに気づく者はいなかった。
支部には、規模は小さいが司祭寮と、祈りと教えの場である聖堂がある。
夕食の後、祈りを捧げるために、家族は聖堂に集まる。
父親は本を何冊か出し、それを聖堂中央の火にくべた。
この儀式は、神前に食べ物を捧げる行為と同じ。書物を燃やし、その知識を神に奉じているのだ。
英知の炎は、少年が知る限り、二百冊を越える本を燃やしてきた。
思えば、この知識はどんな神に捧げているのだろうか。
司祭である両親は知っているだろうか。
祈りの時間が終わり、両親が聖堂を軽く掃除しはじめた。
姉が部屋に戻る前に、昼に作った花冠を渡したかった。年頃というのに、お洒落をさせてあげられないと、母が嘆いていたからだ。