BL小説2
□Feuer bestattung
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火は彼らの前を焼き、炎は彼らの後に燃える。彼らのこない前には、地はエデンの園のようであるが、その去った後は荒れ果てた野のようになる。これをのがれうるものは一つもない。
――ヨエル書2章3節
この地をば焼き尽くさんとばかりに、日が照りつける。
吹く風は熱波となり、砂塵を巻き上げて、生命の歩みを押し留める。
見よや、大陸西南に広がる世界最大の砂漠。ゲヒノム大砂漠の、圧倒的様相。
見渡す限りの砂の大地。蜃気楼のゆらめきと、何者かの骨が、この地の過酷さを無言で教えてくれる。
「あっつぅ……しぬ。しんじまう」
無謀にも砂漠を旅するのは、果たして何者か。
「むーりー。むりさね旦那ァ。アタシらァ、ここでおっちぬのさァ」
「水がつきたならば、そう言え」
先導する青年が、弱音を吐く男に水筒を投げる。
二人の馬も限界が近づいていた。
「こんな所で死にたくはないねェ。頼むよ旦那ァ」
つと、青年が馬を止めた。男もそれに倣う。
「どしたい、旦那ァ」
「見つけた」
青年が彼方を指し示す。目をこらせば、その先には、駱駝と馬との群れと、箱馬車の連なり。
砂漠を流浪する民、ベリオールのものだ。
「おおお!神の采配はこちらに傾いたりっ」
「行くぞ」
集落もない砂漠を旅するのは、愚か者か自殺志願者のみ。
突然の来訪者に、ベリオールの人々はひどく驚いた。
しかし青年が、教会の信奉者の証である聖印を見せると、彼らは喜んで歓迎した。
ベリオールの民は信仰心篤く、祈りと贖罪のために放浪を続けている。
彼らは武器を持たず、執政が変わっても干渉しない。
そんなベリオールを、人々は時に狂信者と嫌悪する。