短編

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「あーやっぱりな、バーンのやつイチェットと繋がっているか」

「ええ、塩の買付に行った宿場の主人が見ていました。ジロッカにいるポチテカは珍しくはありませんが……」

「あいつ、信用できるのはポチテカと母方のキエンガだけだとか言ったくせにさあ。ほんとそういうとこ嫌だ」

 ギドは妹の夫から情報を買っていた。ここに来た真の目的はこれだ。

 レフレムへ行く途上、いくらギドが騒動に巻き込まれたとはいえ、バーンの移動は速すぎる。軍の規制もあらかじめ知っていたかのように掻い潜り、先回りされていた。

「武器密売をしていたキエンガ人と繋がっていますか?」

「イチェットは武器売買はしない。ただ阿片はわからん。あそこはサイーラ、ヨシリピテの輸入出で栄えたから、キエンガが混じるのは当然だな」

 ギドは嘆息した。この貿易会社の成長は言うに及ばず、何よりアルヴァの王子が筆頭株主なのだ。古いだけのポチテカは、戦争がなければ利益は大いに負けている。

「だからってうちを売ろうとするか〜普通?
あいつのことだから、ポチテカの今後のためとかほざくだろうけど」

「リウォインある限り、ポチテカ商隊はなくならないでしょう」

「でも女王を倒したら終わりかもな。それは昔から言われていることさ」

 ギドは急ぎで伯父充ての手紙をしたためた。バーンの処遇は当主が決めることだが、なるべく仲間は増やしておきたい。

「しかし、ギド殿が気づいていることは……」

「わかってる、あいつは切れ者だよ」

 ひとつ落ち着こうと、ギドは茶碗に口をつける。サラがよく飲んでいたやつだな、と少し微笑ましくなった。

「渡り巫師(ふし)がイチェットと組んでいるという噂、眉唾と思えません」

「それは俺の大お祖母様が子供の頃からの話だな。たぶん本当だろ」

 神と契約してから、どの地域にも神が深く関わっていると実感した。
 白姫神だけでひとつの商売に危機が訪れたのだから、大きな商会であらば助言役に契約者がいてもおかしくはない。

「将軍閣下は、なにか知っておいでではないでしょうか」

「あの人は戦場しか知らないよ。いやまじで、こないだお小遣いあげたら困ってたし。
森の魔女も、商売には興味無さそうだしなあ」

 夕星を巻き込むなと、手を軽く振る。相手は理解を示し、ギドの書いた手紙を封するだけにとどめた。

「焦る気持ちはわかる。俺らが終わったら共倒れだからな。でも俺たちはぜってえ負けな「テメエこの糞野郎ぶっ殺してやる!」なんで!?」

 急に談話室の扉が蹴破られたと思ったら、夕星がギドの胸ぐらを掴んでいた。

「この野郎ざっけんなよてめえええ!」

「待って待ってなになになに」

 遅れてサラが現れる。自分の夫と違って慣れたものか、のんびりとわけを説明する。

「夕星さんのね、髪の香油とってもいいものよね〜それ高いのよね〜って話したのよ」

「うるせー!テメエもいちいち説明すんな!」

「ああそういうことぎゃー!」

 巨体が軽々と部屋の外へ投げられたのを見て、サラの夫は、この元将軍は想像以上に交渉事ができないのだと思い知らされた。
 
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