短編
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「うーん参った」
案の定、三人とも幼くなっているうえ、ヘルガの姿はない。
「えっうっそやっばなんで俺、城の中にいるのぉ!?
親父は、叔父貴はぁ!?」
「所用で我が軍で借りている。しばしここで待ってはもらえないだろうか」
軍服を着た人物がそう言うものだから、少年はあっさり納得した。
幼いといえども商人。大きな声で喚いていたのは、むしろ自分を落ち着かせるためだろう。ギドという人物は、実際には冷静な性質だ。
元気いっぱいな少年に、部屋の中を好きに見ていいよと許可を出し、エマヌエルを探す。
部屋の隅に、縮こまっている痩せぎすの子供がいた。子供の周囲を、猩々紅冠鳥がぴょこぴょこと跳ね回っている。
この世に存在しませんとばかりに部屋の壁と一体化している子に、慎重に声をかける。
「もし、よろしいだろうか」
「……」
「貴君の叔母君がそばにおらず、不安に思うかもしれないが」
「……」
「あの」
「……」
「闇が深い」
黙りこくったまま、身じろぎもしない。彼の生育環境を思えばそうなってしまうのも無理はないのだろうが、王子は完全にお手上げだった。
動かないのであらばこのままにして、将軍の方を確保しよう。そう広くない部屋だからすぐに見つかる。
白い髪をきちんと切りそろえた、あどけない子供がおろおろと、なにかを探すように首をめぐらせていた。
「おとうさ、じゃない。ちゃぼ、ちゃぼどこ……」
「ええ……」
不安げに辺りを歩き回り、共生する神を探す様は、親とはぐれた迷子のそれだ。
アルヴァ最強の将の面影はない。頼りになる大人のあられもない姿に、ルートヴィヒは衝撃を受けた。
しかし困った。まつろわぬ神は死に、もうこの世界に存在しない。どう説明したものか。
すがるものが急にいないという事態に、幼子は涙目になっている。
ルートヴィヒは子供が嫌いなわけではないが、その立場上、小さい子の面倒など見たことがない。万が一泣いちゃったらどうしようかとハラハラしていた。
「……ぬいぐるみで我慢してもらえないだろうか」
私物である鳩のぬいぐるみを渡すと、首を傾げつつも受け取る。
決して大太刀の代わりにはならないが、天津甕星以外から何かを貰うのは初めてであったから、小さい夕星は嬉しかった。
「おっ、それサレメーニの縫製じゃん、はじめて見た。よかったな〜すげーいいものだぜ」
人懐こい少年ギドが、雰囲気を和やかにしようと明るく話しかける。
「彼は将来的に君の家に入るのだから、仲良くしてくれ」
「え〜、俺もっと胸が大きい女の人がいい」
「君ほんとそういうとこだぞ」
かなり失礼なことをつらつらと述べるギド。しょせんは子供の言うことだと、ルートヴィヒは流すが、揶揄されたと感じた夕星は顔を赤くして俯いた。
ポチテカ族と葦弥騨では性質が違うのだが、子供のギドではそんな配慮はできない。
うまく取りなさねばと、ルートヴィヒがどう言ったものかと考えあぐねたと同時、夕星は動いた。
「うるっせえぞ糞ガキが死にっさらせえええ!」
「おぐふぉっ!?」
「ええ……」
夕星の拳が、もろにギドの腹に入った。踏み込みも完璧。自分よりも小さい子に負けたことなどなかった少年は、避けるという判断ができなかったようだ。
ルートヴィヒも突然の変わりように本気でびっくりし、止めることができなかった。
王子は知らなかったが、夕星の本来の性格、気質と、魔女の代償による怒りやすさは全く別のものだ。