短編

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「急にヘルガが来てピカッとやったら、ガラテア=バロックと工房の経理が小さい子になってしまった」

「あらすじの説明お疲れさまです」

 棒読みで述べるルートヴィヒに、アレックスは優しく返した。こうも途方に暮れた様子を見るのは初めてであったからだ。

「本当にうちの城ガバすぎない……?」

 だが城の防備を固めるより先に、子供になった二人をなんとかせねば。知らない場所で知らない大人に囲まれ、不安そうにしている。

「ガラテア=バロック」

 希代の美しさをもつ画家は、幼少時からたいへんに見目麗しい。あどけない表情で、目線を合わせるために膝をついたルートヴィヒを見る。

「体は何ともないか、痛いだとかーー」

「あうあー、あふろびあうあじょはば」

「共通言語でお願いします」

 コミュニケーションをとることを早々に諦め、飴を舐めさせる。恐いもの知らずのユニオは、甘味にたいそう喜び、笑顔を見せた。

 一方で、経理のシャル・キンと会話を試みたアレックスは、意外にもうまくいっていた。

「そう、君のご家族に頼まれているんだ。人種は違えど、同じ赤髪のよしみと思って、私とも仲良くしてもらえるかな」

「はい、よろしくおねがいします」

 いささかの緊張をみせてはいるが、小さいシャル・キンは素直に応じた。アレックスが人好きのする笑顔で話しやすい雰囲気を出しているというのもあろうが、幼子にしてはとてもしっかりしている。

 こんないい子がどうこうしたら、ああもやさぐれてしまうのか。ルートヴィヒはいつか自分もそうなるのかなと、なんともいえない気持ちになった。

「それと、同じ部屋のヨシリピテの子と仲良くできるかな?
もし嫌だったら、部屋を別に設けるがーー」

「いいえ、だいじょうぶです。ヨシリピテのひとにはいいひともいるし、おないどしのこなら、なかよくなりたいです」

 いい子すぎて、ルートヴィヒはいたたまれなくなってきた。あと今後はシャル・キンにも優しくしようとも思った。
 かたやアレックスは笑顔を貼りつけたまま、少年の両肩を掴んでずずいと近づく。

「きみ、私の弟にならないか」

「伯父上、ステイステイ」

 幼子に妙な圧力をかける身内を、王子は慌てて止める。

「落ち着いてはくれまいか。怖がっている」

「は、すみません。取り乱しました」

 幾度も家族というものを失った人物だ、その胸中はルートヴィヒには計り知れないほどの寂寥があり、なにをもってしても埋められはしないだろう。それはそれとして、急にぶっ壊れるのはなんなのか。

 あいにく妹は公務で城にはいない、王子だけでこの状況にツッコミ仕事をしなければ。

 画家と経理は伯父に任せ、原因のヘルガを探しに、ルートヴィヒはひとり部屋を出る。

 北方の女王は暗殺者どもの首魁であるがゆえか、姿を隠し敵を穿つことが得意だ。また長らくを生きた魔女は、あるいは城主よりも宮殿内部に詳しい可能性がある。

 手段を選ぶ暇はない。すぐ近くの客間に、エマヌエルがいる。ついでに彼の所用でポチテカの商人と剛崎将軍もいたはずだ。

「てめえええ糞女ぶっころうおあああ!?」

 将軍の怒声というか、すっとんきょうな叫びが耳を貫く。これはだめかもなあと、ルートヴィヒは覚悟を決め扉を開いた。
 
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