短編
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ポチテカの街に帰る前に、ギドはよその家に嫁いだ実妹サラの様子を見に行きたいと言い出した。
「急ぎの商談もないしさ、ていうかもう行くって言伝してあるんだけど」
商人というものは、嫌味なほど段取りが早い。
白姫神をレフレムに返すとなったときから、帰りがけに寄ろうとは思っていたのだろう。
「ギド兄さん、夕星さん、よく来てーーどうしたのその怪我は!」
出迎えたサラは、兄とその妻の姿を見て大きく動揺した。山火事にでも巻き込まれたかのように全身に火傷を負い、包帯や膏薬での治療後が痛々しい。
「お医者様には診てもらったの?こんなにひどいなら、無理に来なくてもいいのに」
「いやこういう感じだから寄りたかったっていうか、ゆっくり帰っている途中なんだ」
サラが嫁いだのは、ポチテカと情報取引のある武官の家。本国貴族ではないものの、アルヴァ軍高官からも重用されている。
「お久しぶりです、父は明日に帰ってきますので、そのときにご挨拶を」
「いやーどうもどうも。妹がお世話になっています」
ポチテカ最高の戦士の妹とあらば、妻としては申し分なく。跡取りを失ってもその弟と結婚させたがるほどに、サラの持つ人脈は重要なものだ。
さらにギドはアルヴァの高名な軍人と結婚した、急な訪問でも嬉々として迎えてくれる。
「剛崎将軍閣下、お目もじでき光栄です。……大丈夫ですか?」
一番近づきたい人物は、ギドの背後で殺気にも近い警戒を向けてくる。
「夕星さん意外と人見知りだよなあ、サラに任せるか。じゃあ俺たちは話すことがあるから」
「は、てめ、待てこの馬鹿っ」
「はあ〜いいなあ二つ結びおさげ。兄さんはともかく、姉さんたちも結ったんでしょう」
「相変わらずよく喋るな……」
侍従が茶や菓子を出し、香を焚く間にも、サラはひっきりなしに話す。
彼女はドルネークの家では家事だ子供の面倒だで、休んでいるところを見たことがないぐらいであった。ここでも仕事はあるが、自分のことは周囲がしてくれるぶん、余裕がある。
「兄さんたら、お土産が桑の枝葉と虫って、子供じゃあるまいに」
「あー……それは」
「知っていますよ、レフレムの蚕でしょう。大切にします」
家を離れても、商品に関する知識はある。白い蛾を指先に止まらせ、愛でる。
「でも怪我はともかく、夕星さんが元気そうで何よりです。貴方になにかあったら、みんな悲しむわ」
「俺は一度死んだようなもんだ、無駄なこと考えんじゃねえ」
万が一にも夕星がギドに対して離婚を言い渡したら、ドルネーク家末代までの恥だ。
それだけでなく、他の家が夕星を手に入れようとしょうもない小競り合いとなるだろう。
戦乱しか知らない武人は、そういった細々とした事は知らないようだ。ギドも妻の耳に入れないよう配慮している。サラは得心し、話を変えた。