短編

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 ギドには二人の息子がいるが、うち離れて暮らしている次男からは、たまに手紙が届く。
 アルヴァの学校に入ったとかで、母親が国軍兵士であったから、きっと出世するだろう。ギドは嬉しくなってカイに手紙を見せる。

「えー?ほんとにお前の子か?」

「うわひっで、お前だってちょっと面倒見てくれただろ」

「そうだけどさ。いやー全然会ってないな。大きくなったろうなあ」

「ギドおじさーん。シグのにいちゃんが来てるよ―」

 カイの息子二人が呼びかける。この兄弟はとても仲が良く、喧嘩しているところを見たことが無い。

「父さん、母さんがなんか怒ってたけど」

「まじかよ……オレなんかしたっけ」

 馬への世話を切り上げて、親子は家に戻る。一方でギドは自分の息子を出迎えた。

「シグ、どうした」

「手紙、来てんだろ」

 同じ街に住んでいる長男シグは、めったに会いに来ることはない。
 二人の妻とは激しい喧嘩別れであった。元妻たちはいまだドルネーク家に近寄らないし、シグも父親に対して反感を持つ。

 だが本当は父親が悪い人間ではないとも解っている。ゆえにつっけんどんな態度をとってしまう。

「来てるけど……あれっお前のとこには?」

「届いているに決まってんだろ。見せろよ」

「え〜そっちのも見せろよ。お前だけずるいじゃんか」

「はあ!?なんで見せなきゃいけねーんだ!バカじゃねーのかっ」

「いや最初に見せろっていったのそっちじゃん!よし、俺と踊るか、それで決めよう」

 シグはめんどくさいなという顔をしたが、ギドは手紙をこれ見よがしにひらつかせる。

「ちょうどお前がどれほどのものか見たかったしな。夕星さーん!」

「なんだうるせえな」

 いつの間にいたのか、夕星が厩の陰から現れる。ギドは手紙を妻にあずけ、審判を頼む。
 シグは結婚の宴で遠目に見て以来だが、この国で最も強い武将を目前にして緊張する。
大砦を単騎で落としたという逸話は真だろうか。というかどうしてそんな人が自分の父親と結婚したのか。

「ず、ずるいぞ、将軍を呼ぶなんて」

「いや、夕星さんいつも俺の近くで俺のこと見張ってるだけだから。どうかと思うけど」

「なに……なんて?」

「うるせえぞさっさとやれ!」

 向こう脛を蹴られ、ギドは腰を沈め構える。
 シグの回し蹴りを避け、地面に手をつき、軸足を蹴る。あっけなく転んだ息子を受け止め、ギドはからかう。

「だめだなー、もっと相手を見ろ。動きも重い」

「うっせ、だいたい体格が違いすぎるだろ」

「俺がお前の年ぐらいのころには、ずっと年上のおっさんたちにも勝ってたぜ。
ちゃんと自分で音律をとって、それを保て。踊るっていうのは比喩じゃないんだ」

 ちゃんと見てろよ、とギドは夕星と相対する。
 ギドは向かってくる夕星の拳をすべて避けて見せ、その動きで相手の背後に回る。
 攻撃範囲ではギドに分がある、ここで足をかけて転倒させれば勝ちだが、あいにくそんなことでアルヴァ最強の男はびくともしない。

「夕星さん、お願いだから俺に花をもたせてっ……!」

「黙れ糞が!弱え奴が偉そうなこと言ってんじゃねえぞ!」

「うおあっ!?」

 懇願は無視され、体重差などものともせずに夕星はギドの腕を掴み押し倒す。そのまま寝技に持ち込み、腕を固め締め上げる。

「まってまじまって!寝技は苦手だから勘弁してえ!」

「戦場では拘束されたら終わりだろうが!そんなだからテメエらは北方の連中の不意打ちに弱えんだ自覚しろ馬鹿が!」

「ひーもう無理〜たぁすけてー!」

「親父……ポチテカ最高の戦士とか誰が言ったんだ」

 途中まで父をかっこいいなと思ったシグだが、よくわからないものを見せつけられ、手紙はもういいやと帰ることにした。
 
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