短編
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お姫様は仔馬のぬいぐるみを、いつも眠りのお供としています。彼はお姫様の幼いころからその任をはずれたことはなく、主人の眠りを守り続けています。
お姫様はいつも通り、王様に着替えさせられ、寝台に上がります。仔馬のぬいぐるみを手に取ると、おや、いつもと感触が違いました。
「ほつれたところが直ってる」
しかも昔に侍従に補修してもらった部分も、さらに綺麗に直されていました。本物の職人に修繕させたのでしょう。
「ええ、勝手ながら私が命じました」
「でも、昨晩もここにあった……仕事が早すぎる」
「当然です。仔馬さんの代わりはおりませんから」
そしてこちらは私から、と王様は仔馬のぬいぐるみに小さなベストを着せてあげました。
「……ありがとう」
「よくお似合いです」
「ふふ、良かったな、お前」
口が悪く、作り笑顔以外にめったに口角を上げないお姫様の微笑に、王様はいたく満足しました。
「さすがは姫のお気に入りの仔馬さんですね、身姿だけで我が愛しの君を幸せにしてしまう」
「……前から気になってはいたのだが、どうしてこの子に敬称をつけて呼ぶのか」
王様はからかい相手の魔女と、部下や家臣を除けば、どんな人にもていねいな言葉を使いますが、それでもぬいぐるみごときに、とお姫様は問いました。
王様はそれは簡単なこと、と答えました。
「仔馬さんのほうが私よりも長く、我が妃に仕え、私よりも長い友であるからです。
ようは私の先達。心より敬意を持っています」
「そ、そんなことで……」
ですが王様はお姫様に嘘を吐いたことはありません。
「……僕は男のくせにろくに馬に乗れないから、この子が慰みだったんだ、それだけ」
豊かな金脈を持つ土地の姫は、どこかの国に嫁ぐことが生まれた時から決まっていました。
ですからお姫様は、乗馬の基本はできても、速く走らせたり、急な方向転換の捌き方は教わりませんでした。いずこかへ逃げてしまわないようにするためです。
「私の麗しの君、何事も遅いということはありません」
そつと、王様がお姫様の手を握りました。
「ええ、今からでも馬乗りをはじめようではありませんか」
「えっ……でも」
「妻がしたいことを叶えるは、夫たる私の役目です。仔馬さんに胸を張れる私でいさせてください」
王様は寝台の隣にある飾り棚の引き出しを開け、中から乗馬用の一本鞭を取り出しました。
「鞭を持ったことは? ああやはり初めてですか、いいでしょう、手取り足取りお教えしますとも」
「待て待てなんでそこに鞭が入ってるんだ。ああもう駄目だ、駄目な気しかしない」
王様はうっとりした表情で、お姫様に鞭を握らせます。
そして自分は床に四つん這いになり、尻をお姫様に向けました。
「乗馬は楽しいですよお姫! 私に遠慮や力加減はいりませんからね、存分に乗りこなしてみせてください!」
「さっきまでの僕のっ、初々しい気持ちを返せよっ、このっ、変態ーッ!」