短編
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「あ……ごめん、ごめんなさい、やっぱり、その……」
耳まで赤くした私の恋人は、申し訳なさそうに私の胸をそっと押し返す。
ため息を飲み込む。毎度こうだ、そして何度目だろう。抱きしめ、キスを繰り返し、それでも恥ずかしいからと、その先を拒絶される。
最初は奥ゆかしく、愛おしいと思えた。そもそも、彼のそういったところに惹かれたのだから。
だが一年以上も拒否をされてしまうと、自分に自信が失くなってくる。清潔感を保ち、体型や着るものに気を配れど、行為そのものが恥ずかしいとなると、もうお前には魅力が無いと言われるようなもの。
……本当に愛しているならば、身体の関係などなくとも、幸せであるべきなんだろう。
前々からそういった事を相談している、同じ性癖の友人が、ついにこう言った。
「んじゃあ俺とヤろうか」
最初は断った。だが後腐れない関係であること、友人は恋愛というものにこだわりをもっていないこと、何より私がもう疲れてしまっていたこと……言い訳に過ぎない。
それでも、男として認められた充足感があった。相手が私の動きひとつで喘ぎ、喜び、互いを満たす。すっかり忘れていた。
「あはは、俺たち相性よさそうだ……は、泣いてるのか?」
「最近機嫌がいいですね」
そう言われ、さすがにどきりとした。
友人を抱く度、罪悪感から恋人により一層尽くしてしまう。
そして彼も、申し訳なく思っていたのだろう、初めて私を誘ってくれた。
服を脱がそうと肩に触れると、若干震えている。私はボタンを外す手を止めた。
「無理はしなくていいよ、悪かったね」
そう言って襟を整えてやると、恋人はほっとしたように息を吐いた。その様に、心が冷えるような感情を覚えた。
もういいと思った。そう、もういい、もういいんだ。
携帯電話が鳴動する。友人からのメールだ。