短編
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エンデフリ切甘(トロイメライ)
族長らの顔合わせには、さすがに王妃も出席しなければいけない。
久しぶりの外出、馬車に、だがフリードリヒは大人しく隣の夫にもたれて甘える。
「ふん、毎度そのように、慎ましくあればよいものを」
思わず嫌味を言いたくなるほど、王妃の好奇心は子供のように旺盛だ。というより、子供のまま成長しきれなかった反動か。
馬車に乗れば窓から外を見て、目前の風景がどうしたこうしたと、きゃあきゃあ騒がしいのだ。
「だってどうせ、よくわかりませんものー」
フリードリヒの視力は、まともに文字も書けぬほど弱くなっていた。じっと目をこらせば、ぼんやりと相手の顔が見えるという程度だ。
そのせいか、ここのところ甘える様子が増えてきた。悪化したとも言える。
夫の腕に頭をこすりつけ、エンディミオが煩わしげに振り払おうが、縋ってくる。
「陛下、だっこしてくださいー」
それで気が済むだろうか、エンディミオは妻の額を小突き、脇の下に手を入れて向かい合うよう膝に乗せてやった。
「幼児か、そなたは」
「お傍にいたいんです。陛下の隣で死ぬと決めたから」
「そなたは私がいつでも、城にいると思っているのか」
アルヴァ王は戦に出向き、勇猛に戦ってこそだ。フリードリヒはあからさまに落ち込み、呻る。
「うあー……そうでした」
「愚か者が。私はしばらく遠征に出てはいないだろうが」
やはり忘れているようで、フリードリヒは考え込む。しばらくして破顔し、王の首に抱きつく。
「陛下っ、嬉しいです」
さらにまとわりつく妃の髪を掴み、距離を取らせる。
「ありがとうございます。もう一人で眠るのは、寂しいんです」
「馬鹿馬鹿しい、寝てばかりいる怠け者が」
「エンディミオ様、ふふ、大好き」
フリードリヒは王の顔に触れ、指先で唇を探した。そこに口をつける前に、エンディミオの方が早く、噛みつくようにくちづけた。