短編
□6
5ページ/35ページ
有二晋哉の甘い話(ゲロ)
「ばーかお前、先生だってそんな暇じゃないだろ」
『やっぱそーかなー。そういえば課題の今どき読書感想文。ゆーは何にする?』
「まだ決まってないな」
『まじでー?参考にしようかとおもったのに』
「そう言うと思った。ぜってー教えねー」
有二はいつものように、自室で佐東と話していた。
とりとめのない、課題の相談や、遊びの約束といった事ばかりだ。
話も一段落し、通話を切った直後、晋哉が部屋のドアを問答無用で開け、入った。
「な、な、なんだよ?」
「うるさい」
全く簡素に、兄は吐き捨てる。隣に丸聞こえだったか、と有二は素直に謝った。
「ごめん、次は気をつける」
「よく話すのって、家に来た茶髪の子」
「そうだよ佐東って奴」
不機嫌さもあらわに、晋哉は弟に近づく。ベッドに座る有二は思わずのけぞるが、相手はそれも構わず迫る。
「ああいう子がいいの」
「は?」
「ちゃらちゃらしてて、馬鹿っぽく振る舞って誤魔化す子がいいの。
僕はああいう子が嫌い」
有二は驚いた。年下にやたら突っかかる晋哉の態度もそうだが、兄は佐東を『馬鹿っぽく振る舞って誤魔化す』と指摘した。それは的確だった。あるいは同属嫌悪だろうか。
「落ち着けって、俺と佐東はただの友達。中学からだから、他より仲良いってだけだ」
「……そう」
晋哉は少し距離を取ったが、いまだ納得していないという雰囲気だ。その証拠に、有二の服から手を離さない。
「髪は染めて遊ばせた方がいいの?シンプルよりアメカジがいいの?」
どちらも佐東のスタイルだ。見た目だけなら、高身長イケメンな佐東には似合うが、晋哉にはかすりもしないだろう。
「だから落ち着けって。晋哉がそうなったらさすがに引くわ」
「……引、く」
「それに佐東は確かにあんな奴だけど、約束は守るし、余計な事は聞かない、良い奴だって」
「うん……ごめん」
「つか俺は、晋哉の見た目がどうこうで言わねえって女装以外は」
「でもゴス好きでしょ」
「ちげえよ俺はスチームパンク系写真集が好きなだけだ」
ごり押しで説得すると、晋哉はようやく安心したか、弟から手を離す。
「……わかった」
「お前なんか、だんだん面倒くさくなったなあ」
「……君のせいだ」
「またそう言う……」