短編

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有二晋哉の甘い話(ゲロ)


「ばーかお前、先生だってそんな暇じゃないだろ」

『やっぱそーかなー。そういえば課題の今どき読書感想文。ゆーは何にする?』

「まだ決まってないな」

『まじでー?参考にしようかとおもったのに』

「そう言うと思った。ぜってー教えねー」

 有二はいつものように、自室で佐東と話していた。
 とりとめのない、課題の相談や、遊びの約束といった事ばかりだ。

 話も一段落し、通話を切った直後、晋哉が部屋のドアを問答無用で開け、入った。

「な、な、なんだよ?」

「うるさい」

 全く簡素に、兄は吐き捨てる。隣に丸聞こえだったか、と有二は素直に謝った。

「ごめん、次は気をつける」

「よく話すのって、家に来た茶髪の子」

「そうだよ佐東って奴」

 不機嫌さもあらわに、晋哉は弟に近づく。ベッドに座る有二は思わずのけぞるが、相手はそれも構わず迫る。

「ああいう子がいいの」

「は?」

「ちゃらちゃらしてて、馬鹿っぽく振る舞って誤魔化す子がいいの。
僕はああいう子が嫌い」

 有二は驚いた。年下にやたら突っかかる晋哉の態度もそうだが、兄は佐東を『馬鹿っぽく振る舞って誤魔化す』と指摘した。それは的確だった。あるいは同属嫌悪だろうか。

「落ち着けって、俺と佐東はただの友達。中学からだから、他より仲良いってだけだ」

「……そう」

 晋哉は少し距離を取ったが、いまだ納得していないという雰囲気だ。その証拠に、有二の服から手を離さない。

「髪は染めて遊ばせた方がいいの?シンプルよりアメカジがいいの?」

 どちらも佐東のスタイルだ。見た目だけなら、高身長イケメンな佐東には似合うが、晋哉にはかすりもしないだろう。

「だから落ち着けって。晋哉がそうなったらさすがに引くわ」

「……引、く」

「それに佐東は確かにあんな奴だけど、約束は守るし、余計な事は聞かない、良い奴だって」

「うん……ごめん」

「つか俺は、晋哉の見た目がどうこうで言わねえって女装以外は」

「でもゴス好きでしょ」

「ちげえよ俺はスチームパンク系写真集が好きなだけだ」

 ごり押しで説得すると、晋哉はようやく安心したか、弟から手を離す。

「……わかった」

「お前なんか、だんだん面倒くさくなったなあ」

「……君のせいだ」

「またそう言う……」
 
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