短編
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エンデフリ話(トロイメライ)
アルヴァ国営の歌劇場が建設三十年として、古典歌劇の記念公演が大々的に行われた。
悲しいかな、戦争が多く、他民族を取り入れるアルヴァは、いやでも自国文化の発展を大いに推進せねばならない。
そんな理由で公演を王家全員出揃って見に行かねばならない事態に、エンディミオは凄まじく苦い顔を見せた。
「わーすごーい、おっきい。きらきらしてるー」
「喧しい。餓鬼か」
王族専用席は、普通の客人からは見えない上階の位置にある。
劇場を利用するのは貴族ばかり。軍人気質なエンディミオは、仕事で若い頃に来て以来だった。
「随分改装したものだ」
アルヴァの濃紅を貴重とした壁、金めっきされた柱や手摺が、天井から吊るされた巨大室内灯に反射し、きらびやかに光る。
「ふえ、目が眩しい」
おまけに隣の馬鹿王妃がはしゃいでいるため、エンディミオはもう嫌になってきた。
「お父様、お母様、ご機嫌麗しゅう」
「どもども」
おかしな挨拶をする息子の頭を叩き、侍従に命じて双子を座らせた。
「演目はアルヴァ英雄譚の騎士アーブラハムによる革命と興国の話ですわね。これまた古典的な」
「記念公演に相応しい内容だ。だが今回は引退表明したばかりの古典歌劇の高名な演出家と、新進気鋭の弟子たちで構成される」
「お兄様は楽しみになさってましたものねえ」
十二を数えたばかりだが、王子と王女は子供とは思えぬ議論を交わす。
その様を侍従らは、たいそう感心して見る。さすがは継承者であると。
だが当然だと、エンディミオは思った。この黒獅子王が手塩にかけて教育しているのだから、これぐらいはできて当然だ。それでも王子はわけがわからないが。