短編
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「っるせえぞ糞チャボがあああっ!」
朝っぱらからこっこうごうおうと鳴いていた鶏は、首を捕まれ勢いよく投擲された。
哀れな声良鶏を受け止めたギドは嘆息した。どうせ鳴き声などギドと夕星にしか聞こえないというに。まあ確かに、枕元ではやかましいかもしれないが。
〈っていうかさ、チャボじゃなくない?立派な長鳴き鶏じゃん〉
「うっせー!チャボはチャボだ!」
『意に介すな、鑓の主。此方が便宜上呼ばせているだけだ』
「へー?」
鶏が脚をばたつかせたため、ギドは床に降ろしてやる。声良鶏はその場にもそっと座り、懐かしむように話した。
『あれの幼い時分はどうにも舌が回らなくてな、此方の名もうまく呼べないようであったから、妥協しただけだ』
〈おとうさんって呼ばせりゃいーじゃん〉
『……』
ギドのからかいに、声良鶏は不満げに首を傾げる。が、それを笑う暇もなく魔女の拳が鶏を殴り潰した。
「ぎゃーっ!う、うわあああ……!」
完全な事故現場にギドは慌てふためくが、幼少のおもひでをばらされた夕星は、もうそれどころではない。真っ赤な顔で何度も鶏を殴る。拳も別の意味で紅い。
「テメエ天津甕星いいいぃッ!ざっけんじゃねえぞこの糞チャ……っぅう馬鹿馬鹿ばかぁ!」
いたたまれなくなった夕星は、半泣きで何処かへ走って行ってしまった。
「……おーい」
さすがに神の化身、何事もなかったかのように起き上がる。
『我ながら、何を間違えたのか。たまに解らなくなる』
〈思春期子持ちの父親の会があるから、一緒に行こうぜ〉