短編
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フリリク:弱ってるフリを慰めるエンデ
双子にマントを引っ張られ、エンディミオは書類から目を離した。
「声ぐらいかけろ」
身振り手振りでちょっと来て、と示される。やかましいと追い払っても、尚の事かじりつく。
宰相にどうぞと促され、ようやく執務室から出た。
「何事か」
「お母様がね、なんか元気ないですの」
「くだらん」
執務室に戻ろうとするも、子どもはねばって離そうとしない。
「こういう時に放っておくなんて最低ですわ。ねえお兄様」
「うん」
二人にぐいぐいと背中を押され、エンディミオは仕方なく歩いた。
確かに双子の言う通り、フリードリヒは寝台に引きこもっている。膝を抱えて、じいと紙片を見つめている。
エンディミオが乱暴に天蓋布を払うと、妃は驚き慌て居住まいを正す。
「へっ、陛下、何か?」
「部屋にもおらず、何を寝ている。予定もずれているぞ」
一応は王妃という立場。預言を求める司祭や、王族に目通りしようという貴族の接待という仕事がある。
それを放棄し、何をだらだらしているのかと叱ると、フリードリヒはそつと紙を王に渡した。
それは手紙だった。差出人はロメンラル伯爵アレックス。つまりはフリードリヒの兄。
内容は実に不穏だった。リウォイン国軍に所属するローレンツに、敵前逃亡および脱走の罪状が出された。このままでは家を取り潰され、伯爵自身も投獄されるは明白。
出来る限りのことはするが、この手紙が最後になるだろうとのことだった。
まさかアルヴァ王妃の実家を潰すとは。ヘルガはあからさまにエンディミオを煽りにきている。
そしてフリードリヒは、兄の心配でまいっていた。
「酷いです……アレク兄様は何もしていないし……ロラン兄様だって、逃亡なんて……」
アルヴァで処刑しても、王妃の兄と知れれば外聞が悪い。
終身刑に処すべきだったか、とエンディミオは舌打ちした。
「諸侯を潰す事を生き甲斐とするような女だ、領地の没収は免れん」
「……せめて、何処かへ逃げてくれれば」
「ひとつ聞くが、そなたの兄は大人しく殺される男か」
「んと、あの」
「もし逃れた辺境伯がいれば保護するよう、国境の兵に伝えておこう。
これでいいだろう」
フリードリヒは喜んで何度も頷く。兄が王を害した後だ、もう半ば諦めていたのだ。
「エンディミオ様、ありがとうございます」
「義務のひとつだ。そなたの尻拭いとも言うが」
だが辺境伯が逃れた場所など判らないうえ、見つかる保証などない。大人しく死刑を待っている可能性もあった。
あくまで王妃を慰めるためだけの虚言。それでもフリードリヒは嬉しいと思った。
「今日は許すが、明日からは真面目に公務をこなせ。よいな」
「はい、頑張りますー」