短編
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アルヴァ王レオナルトは悩んでいた。
今年で成人する息子エンディミオのことだ。
「よいかエンディミオ。いくら悪辣な魔女とはいえ相手は女王だ。言葉は慎め」
「いずれ敵となる人物だ。警戒するにこしたことはない」
父王に対してこの言葉づかい。以前からふてぶてしいとは思ってはいたが、年を追うごとにその生意気さは増大している。
たしかに王らしいといえばらしいが、これでは多民族国家の長には向かず、不安でしかない。
成人祝にと、リウォイン女王が土産を持って訪ねてきたのだ。
不安定とはいえ、和平協定を結ぶ国。丁重な接待が望ましい。
応接間では、着飾った侍従に囲まれた美しい女がいた。
汗のひとつもかかず、魔女ヘルガはねっとりとした視線を王子に送った。
「御機嫌よう、エンディミオ王子。お元気で何よりだわあ」
「お初にお目にかかる、ヘルガ女王。よくおいでなすった」
お互い、口角が上がれど全く目が笑っていない。
レオナルトは簡単に挨拶をし、息子を席につかせた。
「その腕は不便ではなあい?」
「全く」
「会えた記念に、予言を差し上げようかしら」
「不要だ」
「そう、つれないのねえ。つまらないわ」
ヘルガはいかにも残念そうな素振りを見せるが、目の奥は冷淡だ。
「エンディミオ……少しは彼女に合わせろ」
「奴は最初から誰にも興味がない。何をしに来た」
つと、ヘルガは扇を閉じてレオナルトに先端を向けた。
「ねえ、貴方のとこも魔女を使うんですってねえ」
「何の事だ?教会と我が国の関係性を見れば、くだらん噂だな」
葦弥騨の民が提供している魔女のことだ。まだ機密段階である、ヘルガに知られてはならない。
「あら、隠さなくてもいいじゃない。私も魔女なのよ、きっと仲良くなれるわ」
白々しい、エンディミオは吐き捨てるように答えた。
「魔女などに頼らずとも、我が国に敗戦などありえん。いらぬ警告だ」
「そう、たいした自信ね」
「貴様こそどうなのだ。反抗議会によって、二百人を処刑したと聞いたが」
「ああ、良いお話でしょう?悪ぅい人たちを、正しい王様が粛清しただけよ」
エンディミオは感じた。女王は自らの民を弄ぶために、苛烈な王子を挑発し戦争を起こしたいのだと。
そしてヘルガも、いずれ目前の少年と長く戦うだろうと、期待していた。扇を広げ口元を隠す。舌なめずりした顔を見られぬように。