短編
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ワシの名は新田米造!カレーはナン派で、好きなカレーはうどんじゃ!
さて鮫を食ったワシらは、無事にとしおの親戚の家に着いたぞい。
ずーっと気を張っていた兵士どもは、皆ほっとした表情をしておる。
「トゥシオ王子!よくぞご無事で……!」
「男爵閣下、貴方も息災で何よりです」
「お迎えできず、申し訳ありません。ですが私の兵は、王子に着いていく所存です」
「仕方のないこと……魔女の報復で諸侯は怯えきっています」
「ですが王子まで見捨てるなどできません。機を待ち、必ず王権を取り戻しましょう」
本当にとしおは周囲に恵まれておるな。良い奴じゃし、皆もあいつに王様になってほしいんじゃろ。
「おや、そこな子どもは何者で?」
「彼はヨネゾー殿といいます。見目は少年ですが、魔獣ギョルンヌフやプロゼールを倒したのはヨネゾー殿なのです」
「こんな年端もいかぬ子どもが……?」
うーんなんと説明したものか。観音様によってジジイが若返ったなぞ、ガキでも信じまい。
ちくと悩んでおったら、ここの衛兵が慌てた様子で駆けつけてきた。
「か、閣下!大変です、屋敷の前に巨大な鰐が……あれは魔獣リドリルフです!」
「なっなんだと!?」
皆が慌てて装備を整え、盾を持つ。この領地は大きな湖があり、水源に恵まれておる。
衛兵いわく、水を引くための用水路から、ここに侵入されたという。
噂をすればなんとやら、足を食いちぎられた衛兵が運ばれてきた。
「馬鹿な、ここまで侵入を許したというのか!?」
どれほど小さい魔獣か、と思いきや、屋敷の扉を突破したは、馬鹿でかい鰐(わに)だ。
歩みは遅いが、噛みつく時だけは目にも止まらぬ!兵の剣も盾も噛み砕き、床を血で真っ赤に染めおる。
「王子!お逃げください!」
としおが兵の後ろに行ったのを確認したワシは、噛むのに夢中な鰐の頭におおいかぶさった。
鰐はアゴの力は強いが、口を開ける力は弱い。〆るときは口を輪ゴムで止めるだけでいいと、南米にいた時に胃薬を分けた謎の中国人に教えてもらったのじゃ!
だが鰐も抵抗しくさる。巨体を回転させ、ワシを振り払おうとする。
ワシは硬いウロコに、わざと手足を刺して固定した。なあに足をもがれた兵を思えば痛くない。
「今じゃ!早う腹をぶっ刺せ!」
兵たちが殺到し、ウロコの無い部分に剣を刺していった。
「鰐は久々じゃが、まあなかなか」
解体した鰐は焼いて食うたが、蛋白じゃのー。泥臭いし、醤油が欲しいのう。
「さすが、王子が認めただけはある。冷静な判断力に、勇猛な精神……ゲテモノ食いなのは、いささか欠点だが」
「なあに食わず嫌いはイヤなだけじゃ」
鰐退治で男爵に認められ、ワシらはようやく休むことができた。
夕食にありつきながら、としおは今後を話し合う。
「……ヨネゾー殿は、命知らずにも程があります」
「そうかの」
「もっと自分を、大事にしてください」
としおは何やら怒っておったが、うーむ、そんなに鰐は不味かったか?