短編
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ワシの名は新田米造!新しい田んぼの米造りと書くが、実家は大工じゃ!
なんか知らんが、観音様に新しい人生を贈られ、としおという男に馬車に乗せてもろうた。
「この馬車は、どこにいくんじゃ?」
「私の母の縁戚に当たる、ミルオール男爵領です。
お恥ずかしい話ですが、我が国は父が亡くなって以来、叔父上の権力が強くなり、ついにクーデターを起こされてしまいました」
「はん?クーデター?としおは偉いんじゃろう、部下はおらんのか」
じじいでもカタカナ言葉ぐらいは解るわい。しっかし、としおはまだ十代だろうに、苦労しとるのう。
「それが……叔父上の妻は魔女なんです。彼らの操る魔獣に、兵士らは敵いません」
「まー特攻なんて無駄じゃからの。命の方が大事じゃ」
「我が国はとても平和で、戦争なんて誰も知りませんでした。実に情けない……」
「良い事じゃ。戦争なんて知らん方が良い」
としおについてきた兵士は二十人ほど。魔女だかまじゅーだか知らんが、まあワシは飯と寝床を貰えりゃそれでいい。
としおの話を聞いているうちに、目的地に着いた。
畑が広がるのどかな村じゃ。猟犬が警戒するように鳴いておる。
「山も近くていい所じゃな。ここ住もうかな」
としおは村人の歓待を受けておる。結構人気者のようじゃ。
としおの友人として紹介され、村人に着るものを分けてもろうた。
「ヨネゾー殿、貴方を故郷に送りたいが、国はどちらで?」
「あー……いやー……や、山で暮らしとったんじゃ」
日本なんてないじゃろうし。としおも素直な奴で、信じておる。
「たっ大変だー!山にっ山に化け猪が出た!あれはアルペーの魔女の獣だ!」
「まさか、王子を追って!?」
「獣避けの杭もなぎ倒して、こっちに来ている、早く逃げよう!」
耳障りな鳴き声をあげて、巨大な猪が突進して来よる。民家に大穴をぶち空け、猟犬やヤギを牙で投げ飛ばす。
確かにでかい猪じゃが、熊でない限り勝ち目はある!
ワシは拳大の石を持ち、兵士や村人らに声をかけた。
「こめかみじゃ!こめかみを狙うんじゃ!」
あの猪、目が悪いようだ。民家に当たって怯んだ隙に、猪にこめかみに何度も石を打ち付けた。
「はよ手伝え!鍋でも金槌でもいい、皆で殴りゃ死ぬわい!」
「そ、そうなのか……?」
「でも見ろ、痛がってるぞ」
「よ、よし、おい、鍋持ってこい!」
男どもが集まり、猪を殴りまくる。兵士共は猪が動かんよう押さえつけた。
「今夜は牡丹鍋じゃー!」
ついに猪が倒れると、皆は歓声を上げた。そんなに牡丹鍋が好きかと思いきや、としおはこう言った。
「すごいですヨネゾー殿!あの魔獣を……数百の騎馬をなぎ倒したギョルンヌフを倒してしまうなんて!
貴方はこの国の英雄だ!」
「魚類だが糞だが知らんが、包丁と鍋はまだかの」
兵士どもがワシに対し敬礼して行く。なんか、飯どころではないようじゃ。