短編
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目が覚めて、わざわざ窓の外を見る必要もなかった。土砂降りの大雨だ。
少しの雨ならば散歩も行ってやるが、こうなると無理だ。車椅子の車輪は濡れた道路に滑りやすく、俺は嫌いだ。
「おはようご主人んんん!新聞とってきたよ、偉いでしょ褒めて褒めて」
新聞を取り、顔を舐めてくる犬を撫でる。
散歩は無しだ言うと、犬はこの世の終わりかというような表情で嘆いた。
「……散歩、ないの?」
「雨がひどいだろ」
「レインコート着てもだめ?」
「だめだ」
でかい犬に散歩無しは負担だが、風邪ひかれる方が困る。
とにかく、犬に体を起こすよう頼むと、窓の外がカッと光った。続いて、腹の底に響く雷鳴。
「えああああ!ご主人んんんこわいこわいいいい!」
「うわっ」
犬は図体に反して、雷が苦手だ。俺の腹に頭を押し付け、毛布をかぶって隠れてしまう。
「バカ犬……朝飯の準備をしたいんだけど」
「もう雷鳴んない?」
多分、と言いかけたらまたドカンときた。結構近くに落ちたらしく、犬が本気で泣く。頼むから漏らすなよ。
「くぅうんううう〜……こわいしんじゃうううううご主人たすけてえええ」
「あーもー……わかったわかった」
犬の頭を撫でて、安心させる。本気の力で抱きつかれて苦しいが、仕方ない。
俺はこいつがいないと何もできないのに、こいつは俺がいないと何もできないなんて、おかしな話だ。