短編
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俺を風呂に入れるのはもちろんこいつの役目なんだけど、秋だからか、べたべた触るようになってきた。
「あのさあ、俺男だから、化粧とかいらないんだけど」
青い缶に入った真っ白いクリームを、俺の全身に塗り込む。顔にまで塗られるのは、いつまでたっても慣れない。
ていうか、これ昔母さんが使ってたなー。母さん元気かな。
「これは化粧ではなく、君に必要な皮膚の手入れだ。昔は乾燥で、皮膚が剥がれて赤くなっていただろう。あれはひどかった」
言われてみれば、もう痒くなったり剥がれたりがなくなった気がする。軽いアトピーもちだからそんなもんかと思ってたけど、こいつ曰く、日々の保湿らしい。
「だからって別に、ケツに塗んなくていいんじゃね?」
「いいや、臀部の表皮のぶつぶつがなくなった。これからも続ける」
「でもこれべたつくじゃん?べたべた嫌いなんだけど」
「ではベビーパウダーをはたこう。……うん、まつ毛もきれいに伸びた」
「そういえばお前、これ財布に塗ってたよな」
「安物の革製品の手入れに。そこの木のチェストにも使っている」
手の先もしっかり塗りこまれる。そういや最近、ささくれなくなったなー。俺ってもしかして、足のかわりに健康を手に入れたのかも。どっちが大事かは知らない。
「あ、もしかして、俺が昔あげた財布?まじで、まだ使ってんの?」
「もちろんだよ、壊れても縫っている」
俺の足壊した奴が何言ってんだ。ていうかあれ、商店街のあたりくじ景品なんだよな、黙っとこう。
首や二の腕に塗られるのはこそばゆいなあ。早く服を着せろって話だ。毎回丁寧すぎるぐらいの執拗さで、俺の体を隅々まで触る。
「唇もきれいになってきたな」
満足そうに笑う。寝る前にもがっつりつけられたなー。どうなのって思ったけど、血が出なくなったからいいか。
こいつの手はたしかに優しいと思う。けど欠点は必ずしもあって、最後に俺のケツの穴に触れてきた。
「あのさあ、もう寝たいんだけど」
「お願いだ、一回だけ」
「ていうかこのクリームで突っ込むの?まじ?」
「大丈夫、ワセリンが入っているから。痔も含め、ようは乾燥が原因なんだよ」
「だったら舐めろよお前が」
「……それも魅力的だけれど、今回はニ●アステマなので」
なんでこいつ、俺の体触ると、いつも発情すんだ?ありえねー、あと良い子は真似すんなよ。