短編

□4
2ページ/20ページ

暗殺者に襲われるエンデと怒るフリ(トロイメライ)


 王宮に侵入した暗殺者が、妃を拐かした事件があって後。
 やりすぎではないだろうかという声が上がるほどに、フリードリヒは軟禁の憂き目にあっていた。

 しかしリウォインの潜入暗殺は精度を増している。警戒するに越したことはないが、王妃や王子たちへの警備に比重を置いたことが仇となったのだろう。




 リウォインのソウイス伯爵が亡命をすると聞き入れ、エンディミオはすぐさま、迎えの護衛を寄越してやった。

 ついでに国境を張っている剛崎の様子を視察。たとえ敵国と同じ魔女でも、使えるものは使ってこそだ。

 帰り際、ソウイス伯爵の護衛と合流する。敵国の状況を見に来ただけではあるが、伯爵は重要な情報をもたらした。

「今、女王は世代交代の時期に入っておりまする」

「ゆえの沈黙か」

「女王はどうやって女王となるのか、あまりに謎です。
しかし、女王が七日七晩自室に籠もったのち、そこに王の姿なく、代わりに健やかな嬰児が、と伝えられています」

 夫もなしに、一体どうやって娘を産むかなど、知る由もない。魔女だから、ですべて説明できてしまうとも言える。

 勝機なのだろう。女王が幼いうちに、一気に叩き潰してしまえば良い。

 伯爵の妻と乳飲み子のために、傾斜のきつい山道は避け、だが隠れるように林を進む。獣道は狭く、並んで歩けない。

 乳飲み子がぐずり出し、母親は黒獅子王の機嫌を損ねないよう、必死で宥める。
 だがエンディミオは一瞥するだけで、何も言わなかった。ただし休憩も許さなかった。

「王妃様の筋の、ロメンラル辺境伯も頼りましたが、かの方も追い詰められているようです。陛下、辺境伯はまだお若い。どうかご慈悲を」

 国境の関所が見えてきた。あえてそこは通らず、東の森近くを通って別隊に預ける算段だ。
 ほうと伯爵が息をついた時、それが最後の呼吸となった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ