短編
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フリリク:RPGパロのつづき(トロイメライ)
魔王を倒し、世界に平和はもたらされたかと思いきや、今度は竜王が国家を築き、国の脅威になるのでは、と危惧されていました。
そこで白羽の矢が立てられたのは、かつて魔王を倒した勇者です。
しかし問題がひとつありました。
「国王さまの命令なのですー。行かないと強制退去命令のうえ、お家を差し押さえだそうです」
「あの糞にも劣る王め……。だが子どもはまだ乳飲み子だ。連れては行けぬ」
そう、勇者は家庭持ちだったのです。
元戦士エンディミオのうっかりとはいえ、双子の子どもとの家庭は実に良好でした。
「大丈夫です。もう仲間は入れましたー」
ああ、またあの性悪魔法使いか、と嘆息したエンディミオですが、現れたのは意外な人物。
「いっえーい!出戻り勇者のローレンツでっす!」
遠くで勇者業をしていたローレンツでした。彼はフリードリヒの兄で、優れた勇者です。
「えーまじでーまじでデキ婚なのー?にゃーん信じられない死ね。
よろしくねー。んーと、気安く義兄様って呼べよ屑が」
可愛い弟を取られてお怒りらしく、ネチネチとエンディミオを責めます。
鵲のように喧しい小舅に、エンディミオは苦渋の表情で妻に相談します。
「もう少しマシなのはいなかったのか」
「魔法使いさんも僧侶さんも、用事があるとかでー」
しかし、このメンバーで竜王を倒せるとは到底思えません。
魔王を倒したのだって、正確には勇者ではなく僧侶でした。
それは勇者もわかっていたようで、さらにもう一人、仲間を呼びました。
「おう勇者よ、右手をくれる気になったか」
「なっ……魔王!」
かつて倒した魔王、テスカトリポカがいました。
確かに頼もしいことこの上ありません。
仲間が揃ったところで早速、ステータス確認です。
「勇者レベル1。主夫レベル55でー」
「待て。主夫とは誰だ」
「エンディミオ様ですよー?いつもありがとうございます」
「……解せぬ」
「暗殺者レベル40、魔王レベル127(チート)。あらー、いけそうですねー」
「それはそれとしてさー、国王からなんか軍資金とか貰ってないのー?」
もちろん、と言って勇者が出したのは、ひのきの棒と銅貨十枚でした。
相変わらずの悲惨さに、エンディミオは無言でひのきの棒を手折り、銅貨はテスカトリポカが飲み込んでしまいました。
「わーおミゼラーブレ。ちょっと待ってなフリッツ、兄様におまかせー」
ローレンツが手身近な商人に近付き、裏路地に誘います。しばらくして帰ってくると、貨幣から手形から、さらには売り物と思われる薬品に地図まで持ってきました。
「親切な商人さんですねー」
「ふはは、なんとも面白い一行だ」
犯罪者に魔王。エンディミオはもう嫌になりました。
おんぶ紐と抱っこ紐を駆使し、双子を胸に背に抱える主夫の姿は実に微笑ましく、竜王討伐に行くものとは思えません。
「戦闘は魔王、貴様がやれ」
「それは全く構わんぞ」
「暗殺者は金銭管理でもしていろ」
「えー、俺は狩りしたいなー。鹿獲るの得意にゃー」
「勇者は動くなよ。絶対に何もするな。わかったか」
「はあい。ていうか、お家での生活と変わりませんねー」
指揮は主夫が取り、旅は問題なく進みました。
意外にも、暗殺者が赤子の扱いに慣れており、一通りの世話をこなしてくれました。
「うにゃうにゃー可愛いねー。猫の次ぐらいに」
「正直助かった……」
「俺とフリッツは五歳違いだからー、世話したことあるしねー。
ねーこの子どっちかくれないー?」
「首をはねられたいか」