短編
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フリリク:エンデフリいちゃいちゃエンデ視点(トロイメライ)
ひとつでも矢が当たれば、死んでしまいそうなほど小さな背に、王妃はさまざまなものを抱えていた。
「陛下、神の預言を、どうか蔑ろになさらないでください」
「神が戦に参じるか?違うだろう。戦うのは我々だ」
本来なら、神憑きは長く生きられない。神がその者の意識を拐ってしまうからだ。
預言は要るが、エンディミオは戦など今までの準備の結果に過ぎぬと知っていた。
隣に座る妻から、預言の紙片を取り上げる。
戦による死は恐ろしくないが、この健気で何も知らない王妃が、神の預言のために死ぬるのは納得がいかない。
「少しは私のために生きようとは思わぬのか」
「……んと、わたくしの生は、全く貴方さまのものです」
話が通らない。苛立ちをそのまま王妃にぶつける。
頬を殴り、顎を捕らえる。
生理的な涙に潤む目が、エンディミオの嗜虐心をそそる。
美しい見目でもないというに、ただ屈する王妃の姿は、こんなにも黒獅子王を揺るがす。
「何を怖れる。私の死か、国の破滅か」
「……その何もかもです。陛下は知っておいででしょう?
預言を逃れうる術はないと」
卓に置かれた紙とペン。王妃は死と破滅の預言を繰り返し、常に何かを警告している。その真意はしかし、王妃自身も知らない。
「この馬鹿者が。先の事など、宗主すら知り得ないのだ。
そなたは私の命に従っていればよい」
いまだに、自分の側にいるだけで充分だと言えない。実にもどかしいが、伝わっていることを信じる他ない。
子供のように細い腰に手を回し、引き寄せる。
フリードリヒはおずおずと、夫の首に両腕を回す。
「陛下のお側は、とても安心します」
「そうか」
「ずっとこうしていれたらいいのにー」
妃を抱え直す。白い頬に口づける。
「そのために、私は戦に行く。隣で待っていろ」