短編

□3
8ページ/42ページ

フリリク:エンデフリいちゃいちゃエンデ視点(トロイメライ)

 ひとつでも矢が当たれば、死んでしまいそうなほど小さな背に、王妃はさまざまなものを抱えていた。

「陛下、神の預言を、どうか蔑ろになさらないでください」

「神が戦に参じるか?違うだろう。戦うのは我々だ」

 本来なら、神憑きは長く生きられない。神がその者の意識を拐ってしまうからだ。
 預言は要るが、エンディミオは戦など今までの準備の結果に過ぎぬと知っていた。

 隣に座る妻から、預言の紙片を取り上げる。
 戦による死は恐ろしくないが、この健気で何も知らない王妃が、神の預言のために死ぬるのは納得がいかない。

「少しは私のために生きようとは思わぬのか」

「……んと、わたくしの生は、全く貴方さまのものです」

 話が通らない。苛立ちをそのまま王妃にぶつける。
 頬を殴り、顎を捕らえる。

 生理的な涙に潤む目が、エンディミオの嗜虐心をそそる。
 美しい見目でもないというに、ただ屈する王妃の姿は、こんなにも黒獅子王を揺るがす。

「何を怖れる。私の死か、国の破滅か」

「……その何もかもです。陛下は知っておいででしょう?
預言を逃れうる術はないと」

 卓に置かれた紙とペン。王妃は死と破滅の預言を繰り返し、常に何かを警告している。その真意はしかし、王妃自身も知らない。

「この馬鹿者が。先の事など、宗主すら知り得ないのだ。
そなたは私の命に従っていればよい」

 いまだに、自分の側にいるだけで充分だと言えない。実にもどかしいが、伝わっていることを信じる他ない。

 子供のように細い腰に手を回し、引き寄せる。
 フリードリヒはおずおずと、夫の首に両腕を回す。

「陛下のお側は、とても安心します」

「そうか」

「ずっとこうしていれたらいいのにー」

 妃を抱え直す。白い頬に口づける。

「そのために、私は戦に行く。隣で待っていろ」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ