短編

□企画もの
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加賀美兄弟


 地主の子である雅之と隆之の兄弟は、その聡明さと仲の悪さで近所では評判であった。

 幼児期ならばまだしも、十代を迎えても尚、相性は悪い。

「隆之!僕の部屋から本を借りたら戻せって、何度言ったらわかるのさ」

 今日も今日とて、兄弟は言い争うていた。
 隆之の部屋で、雅之が弟に説教をしている。いつもの光景だ。

「さあ。兄さんが勝手に戻してくださるから、つい忘れてしまうんですよー」

 後継ぎとして厳しく育てられた雅之と、母親からこれでもかというぐらい甘やかされた隆之。

「お前がいつまでたっても戻さないからだろう。全くだらしない」

「仕方ないんですよ。俺が離れると、母さんが寂しいって言うから。兄さんだって、母さんを悲しませたくないだろう?」

 また母親の話。隆之は度を越した愛情を見せていた。
 すぐに母親を出す弟に呆れ、頭を抱える。
 十代にしてこれでは、末恐ろしい。

「ああうんそうだね。僕も母を悲しませるつもりはないよ」

「最初から最後まで棒読みじゃあないか!」

「けどそれとこれとは違う。お前は人としてどうなのかという話なんだ」

 睨み合う兄弟に、障子の外から下女の声が介入した。

「隆之坊ちゃん、郁阪さんがおいでですよ」

「わかった、今行く」

 兄の静止の声も聞かず、隆之は障子を開けた。
 
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