短編
□企画もの
32ページ/33ページ
加賀美兄弟
地主の子である雅之と隆之の兄弟は、その聡明さと仲の悪さで近所では評判であった。
幼児期ならばまだしも、十代を迎えても尚、相性は悪い。
「隆之!僕の部屋から本を借りたら戻せって、何度言ったらわかるのさ」
今日も今日とて、兄弟は言い争うていた。
隆之の部屋で、雅之が弟に説教をしている。いつもの光景だ。
「さあ。兄さんが勝手に戻してくださるから、つい忘れてしまうんですよー」
後継ぎとして厳しく育てられた雅之と、母親からこれでもかというぐらい甘やかされた隆之。
「お前がいつまでたっても戻さないからだろう。全くだらしない」
「仕方ないんですよ。俺が離れると、母さんが寂しいって言うから。兄さんだって、母さんを悲しませたくないだろう?」
また母親の話。隆之は度を越した愛情を見せていた。
すぐに母親を出す弟に呆れ、頭を抱える。
十代にしてこれでは、末恐ろしい。
「ああうんそうだね。僕も母を悲しませるつもりはないよ」
「最初から最後まで棒読みじゃあないか!」
「けどそれとこれとは違う。お前は人としてどうなのかという話なんだ」
睨み合う兄弟に、障子の外から下女の声が介入した。
「隆之坊ちゃん、郁阪さんがおいでですよ」
「わかった、今行く」
兄の静止の声も聞かず、隆之は障子を開けた。