短編
□企画もの
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野荊と彼
拍手没
傍で熟睡する彼の頬を、野荊は優しい手つきで撫でる。
睡眠を必要としないため、飽きもせずに彼を見つめていた。
「……ん」
彼が身じろいだ。寝返りをうち、そっぽを向いてしまう。
人の身体には必要なことだと理解しているので、野荊は無理に彼を動かさず、鎖の許す範囲で彼を抱き寄せる。
やはり彼の傍は、ひどく安心した。
慈愛でも親愛でもない。しかし恋愛というには、あまりに拙い。
そもそも、野荊をはじめとする存在は、感情というものはない。
仮にあったとしても、元来持っている本質部分のわずかなブレにすぎない。
白部屋が言った通り、それは愛とは程遠いのだろう。
あるいは、角を全て折られて、世界の軛(くびき)から逃れられたのだろうか。今さら知るよしもないが。
ただわかるのは、彼を絶対に手放してはならないという事。
片割れが見たらなんと言うだろうか。
少し自嘲げに笑い、野荊は彼の手を取り甘噛みした。