短編
□拍手ログ
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観察(トロイメライ)
一歳を迎えて間もない双子の様子を、何を思ったかエンディミオが見に来た。
一応は父親なのだから、当然といえば当然なのだが、とはいえ意外にすぎる。
歯止めになる王妃はこの場にいない。御子が乱暴されないかと、二人の乳母は気が気ではなかった。
「同じ空間で育てるのか」
つと、王が疑問を口にした。
たしかに双子兄妹とはいえ、普通は一緒にすることはない。
だが離してしまうと、寂しいのか癇癪を起こすことが多くなる。
それを伝えると、エンディミオはそうか、とだけ言う。自分の専門外のことには、口を出すつもりはないらしい。
エバはやたら活発で、ぬいぐるみを引っ張ったり振り回したりと、せわしない。
隣のルートヴィヒは、指をしゃぶったまま、ぼけーっとエバを見る。父親の存在に、気づいていないようだ。
つと、ぬいぐるみがエバの手を離れ、投げ出されたそれは、よりにもよってルートヴィヒの顔面に当たる。
泣くか、と思いきや、ルートヴィヒはやはりぼけっとしたまま。が、ぬいぐるみを投げつけられたのを遊んでもらえたと認識したのか、何故か笑う。
(頭の方に障害でもあるまいな……)
王妃の存在が脳裏を掠める。よく似たのだろう、と思い直す。
乳母がぬいぐるみをエバに戻してやるが、彼女の興味は父の方に移っていた。新しいもの好きのようだ。
「陛下、いかがでしょう」
乳母がエバを寄越してくれた。片腕で支えきれるかは多少不安が残るが、抱きかたを教わる。
人見知りすらしない姫は、エンディミオの長い髪を容赦なく、これでもかー!抜けろー!とばかりに引っ張った。
赤ん坊とはいえ、王に対する乱暴に、乳母が慌ててエバを引き剥がす。
怒りを受けることを覚悟した乳母だが、エンディミオは少し苦い表情を見せるのみ。
「横暴なものだ……。誰に似たものか」
陛下です、と口にせぬよう、乳母は大変に苦労した。