短編
□拍手ログ
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忍耐の男(トロイメライ)
フリードリヒは気が気ではなかった。
久々に会った我が子のうち、ルートヴィヒがやたら殺気立っていた。
まだ十代そこらでこの覇気。さすがは黒獅子王の子ではあるが、今にもその拳を振るわれるのでは?とフリードリヒは反射的に怯えた。
「ご機嫌ようお母様。健やかにお過ごしですの?お父様にいじめられてませんか?」
エバは変わらず、母の手を取りてはしゃいでいる。
「いじめじゃないのですが……というかそのー、殿下はどうされたのです?」
眉間に皺を寄せ、人殺しの目で本を読むルートヴィヒを示し、王妃は恐る恐る尋ねる。
エバは兄に近寄り、本を寄せる。
重い古語辞典の、頁の間に、台詞つき風刺絵が挟まっていた。
「おい」
「……待て、もう少しで読み終わる」
エバが低い声で脅す。ルートヴィヒはひそやかな声で懇願した。
王女は容赦なく本を取り上げ、本で兄の頭を殴りつけた。
「笑い堪えてないで挨拶しろ」
「わかった、今する、するから落ち着いてくれ」
「あのー……」
不安げな母に、二人は居住まいを正す。
「失礼しました、母上」
「んもう、お兄様ったらあ。本の虫になってしまいますわ」
「な、何事もなくて、よかったですー」
ていうか、バレバレなんだけどな、とは言えないフリードリヒだった。