短編
□拍手ログ
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名前(トロイメライ)
教養のために、アルヴァの歴史書をななめ読みしていたフリードリヒは、つと思った。
「陛下って、王族なのに、お名前短いね」
王とは権威だ。名とは体を現し、故に長くなりやすい。
質問を受けたエリッサは、そういえば教えていなかったか、と思い出す。
「この国は元々、ある騎士が起こした革命により始まりました。
ですので、代々の戦士の威光あれと、名前はそのまま継ぎます」
「ヘルガ様みたいに?」
リウォインの女王は、建国の祖ヘルガの名を継ぐ。幼名は、そのままミドルネームとなる。
「いいえ。先祖の名を、どんどん繋げていきます。あまりに長いので、陛下は普段、通名をお使いになっていますわ」
「んと……ようは?」
「ですので、陛下の本名はエンディミオ・アーブラハム・カーステン・ブルクハルト・ゲープハルト・マテーウス・マルティーン・エッカルト――」
「わわわかったからー、言わなくていいからーっ」
歴代の王者、その十人の名を挙げる侍女を、フリードリヒは止めた。
「……署名は、それ書かなきゃなのー?」
「少なくとも、重要文書は。お若い頃なんか、それがお嫌らしくて、よく投げ出しておられたと聞きますわ」
「だよねー……」