短編
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結局暴れん坊なことに変わりはない。ルートヴィヒは幼子に関節技で拘束するしかないのか、少し迷っていた。
「あらあら、喧嘩してはだめよ。お腹が空いたのかな?」
つと、優しい女の声がかかる。うちの城にこんな声の人いたっけ。
王子が振り向くと、赤い髪をかんたんにまとめた、妙齢の女性がいた。白い肌と青い眼は、間違いなくリウォイン人だ。
「ほら、おねえさんがなにか美味しいもの作ってあげるからね。みんなは何が好きかしら」
子供の扱いに慣れているのか、有無を言わさず二人の子を引き剥がし、ゆっくりと語りかける。しかし暴れないように、その手は少年らの肩をがっちりと掴んでいる。
(本当に見覚えがない……?)
城で働く侍従の顔は、ほとんど覚えている。そもここは王宮の客間で、エマヌエルのために用意した部屋。信頼できる者しか通していない。
つと、彼女の足元を見ると、困ったように禿鷲が右往左往している。
なるほどかの古き魔女は、その重ねた年月から、子供というよりはるか昔の姿になるのだろう。
ルートヴィヒは女性の正体を悟り、ここ十数年で久しく表情を動かした。そしてそれを周囲に悟られまいと、片手で覆い隠す。
「……。……どうしよう」
ルートヴィヒの、腐敗の魔女への扱いはけっこう雑だった。
王子はたとえ敵対する相手でも、異性への対応というのは紳士であるべきだと己に課して生きてきた。
もう一度赤い髪の女性を見て、思わず唸る。
「じゃあおねえさんお茶いれてくるから、みんなちゃんと待てる?
あっちの壁際にいる子とも仲良くしてあげてね、でも無理に話しかけちゃだめよ、ああするのが安心できる子もいるの」
はーい、と少年らは素直に返事をした。
「お茶煎れてきます」
「まあ、やんごとない方とお見受けします。そんなことをさせるわけには……」
「いいんです、子供の世話をお願いします」
動揺しすぎて敬語まで出始めたルートヴィヒは、足早に部屋を出る。
(もうこうなったら父上を巻き込むしかない……!)
一人で抱えるのがしんどくなったルートヴィヒは、父という犠牲者を探しに行った。
ちなみにヘルガの呪いは一晩で解けた。