短編

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 私はとある広大な土地を持つ公主さまが、僻地の視察のおりに、見初めていただきました。名もなき、貧しい人間でしたが、いくつかの言葉を訳すことができたためです。

 公主さまは私を自らの屋敷に持ち帰り、妾の一人としました。屋敷には数多くの妾がいました。
 公主さまはたいへんに、寛大な心の持ち主です。私は故郷を潤す金銭と、公主さまから愛を得ることができました。

 しかし、公主さまの機嫌を損ねたり、病にかかった者は、すぐさま別所に移されます。
 私はなるべく長く仕えることができるように、心から公主さまに尽くしました。公主さま好みの見目に変え、夜に語るための詩を綴りました。

 それでもそう長らく、続く生活ではありません。私は公主さまの子を宿し、屋敷とは離れた場所に移されました。

 ついに棄てられた……覚悟をしてはいたものの、涙が止まりません。
 温情か、従者をつけていただき、食べるに困らない日々を送ることはできます。しかし、一度得た愛を諦めるなど、私にはできませんでした。

 私はなんとか元のように、あるいは下働きでもよいから、公主さまの屋敷に戻ることはできないかと、思案しました。
 そこでまずした事は、道端の草から毒のあるものを選びとり、自ら服毒しました。

 毒は薄めたものの、私は寝台から出られぬ身となりました。
 しかして目論見通り、腹の子は流れてくれました。公主さまにはもう四人の息子がおりますから、これ以上は不要なのでしょう。

 これで再び、公主さまのそばにお仕えすることができます。私はあまりに嬉しくて嬉しくて、笑いが止まりません。




――彼はこの時知らなかった。公主が彼と、彼の赤子のための調度品を土産に、立派な馬車で、誠意をもって愛する妾の元に向かっていた。

 
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