短編
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「かぶとがにが〜……かぶとがにが〜」
腕をどでかいカブトガニにもぐもぐされる夢を見たギドは、うなされる自分の声で覚醒した。
「カブトガニってなんだよ」
見たことも聞いたこともないものの夢でまいるとは、疲れているのか。
その原因は隣で寝ている妻だ。ギドの腕をがっしりと抱きかかえて離さない。
(そーいえば刀も抱えて寝てたな。じゃあ何、俺は毛布?)
癖か何か知らないが、猛将のくせに子供じみた寝方をする。その割に起きたらしれっとした顔で、ギドがだっこしようとすると叩く。
自由な方の右手で、夕星の頬を指先でくすぐるように撫でる。イタズラのつもりが、予想外にギドの手に顔を押しつけ、甘えてきた。
(!?か、かわいい!)
全く抵抗しないものだから、調子に乗って頬や唇を突っついて遊ぶ。
起きる気配がすれば、すぐ手を引くつもりだが、夕星の寝息は安定している。
(あっもしかしてちゅーできるか!?できる!)
少し夕星を抱き寄せ、唇を合わせる。大胆になったギドは、指で夕星の口をこじ開け、ほんのちょっとだけ舌を入れた。
(……これでも起きないか?)
流石に息苦しいか、夕星が夫の腕に脚を絡め抵抗する。慌てて離れると、しかし身じろぐ程度だ。
(なんか、罪悪感が……)
ギドとていちゃいちゃするのは好きだが、無理強いは良くないし、いくら悪戯し放題でも、夕星はそれを本心から嫌がるだろう。
「うーん、ごめんな」
頭を撫で、寝なおすかと枕を直していると、つと隣から眠そうな声が聞こえた。
「……起きたら……ぶち殺してやる……すぅ」
「……ですよねー」