短編
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「夕星さん大変だッ!」
いつになく焦った様子のギドに、夕星も髪を編む手を止める。
「俺今日中に夕星さんとちゅーしないと死ぬ呪いにかかった!」「死ね!」
当然ながら失敗したギドは、ですよねーとこぼしながら夕星の隣に座った。中断していた三つ編みを手伝う。
「どの世界に、そんなくだらねえ呪いをかける奴がいる」
「禍令さんとか」
「……ああ、安心しろ、皆殺しにしてやら
あ」
「男前すぎるだろ……。あーあ、夕星さんどうしたらちゅーしてくれるんだ?」
三つ編みの先を紐で留め、お守りをつける。
夕星は苛立たしげに三つ編みを払い、ギドに向き直る。
「んな遠回しに欲求せずとも、それぐらいしてやる」
「まじで!?えっじゃあお願いします」
「いっ今やるとは言ってねえだろ馬鹿!」
「わかった、俺は目を閉じてるし、何もしないから」
「な、舐めないなっ?」
「ないない」
夕星は三つ編みをぎゅうぎゅう引っ張って悩み抜いた後、目を閉じて待つ夫に近づき、そつとくちづけた。
薄い唇だが、熟れた果肉のように柔らかい。ギドは抱きしめたい衝動を押さえ、なんとかじっとしていた。
だがこれぐらいはいいかと、目を開ける。頬を赤く染めた夕星が、意外にも嫌な顔せず、むしろうっとりしているようにも見受けられる。
可愛いなあと思っていると、ふいに夕星が離れた。指先で口元を辿り、感触を思い出すような素振り。
つと目が合った。何故だか夕星は直感で、ギドが目を開け見ていたと悟った。人差し指と中指で、非情にも男の両目を突く。
「ギャー!めがぁっめがぁぁああ!」
「うるせえ馬鹿!くたばれこのクソ野郎!」
目を押さえて床をのたうち回るギドを捨て置き、夕星は顔を真っ赤にして部屋を飛び出した。