短編

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 ポチテカ最高の戦士と、アルヴァ最強の武将の結婚式が終わって一週間後。ギドは仲間達に祝われたり、からかわれたりしていた。

「まさかあそこで結婚を申し出るとはなー、このこのー」

「あそこしか機会ねーと思ったんだって」

「でもお前、いつも殴られてんじゃん」

「ああ見えて手加減してくれてるぜ。てか夕星さんは俺しか殴らないだろ?
あれはまあ、猫が引っ掻いてくるようなもんだ」

 万の首を刎ねたと言われる将軍を、猫にたとえる男もだいぶおかしい。

「まあ、仲良くて何よりだ」

「っていうか大お祖母様が許したことが驚きでさあ」

「モギヴ婆さんは、嫁が文句言わなければ口を出さないよ。ドルネークの女が元気なのは、婆さんの采配のおかげだ。
ギド、悪いが帳簿を写しに行ってくれ」

「おう」

 大叔父から黒板を受け取り、ギドは仲間の輪から離れる。

 この家の唯一の金庫部屋には、今までの売買に関する記録が山積みになっている。
 計算が得意な何人かが、算盤を弾いては紙に数字を書いていく。

「ミオニス母さん、頼むよ」

「あいよ。すぐ終わるからねえ、お客さんの相手をしておくれ」

 家畜売買をしている若者が、帳簿の書き写しを待っていた。ギドはいつものように、笑って話しかける。

「よお、うまくいっているか?」

「ああ、結婚式で山羊を買ってくれたおかげで……いや買いすぎだろう、子山羊を他から仕入れたぞ」

「いや悪い悪い。なにせ思ったより客が多くて」

「嫁が魔女なんだろう、物珍しさからじゃあないか?」

 若者の失礼な言葉に、算盤の音が止む。ギドは目で制し、自分が宥めると示した。ポチテカの若者は、よく調子づく。

「ばっか俺の人望だって、うはは」

「で、魔女の具合は普通の女と同じか?」

 非常識な物言いに、注意の声がかかる直前。ギドは若者の頭を掴み、額を打ち合わせた。

「ってえ!なにし――」

「お前、そんなに俺と踊りたいか」

 にこりとも笑わず、挑発する。顔の刺青に慄いたか、若者は小さな声で謝罪した。
 ギドはいつもの快活な表情に戻り、若者から離れる。

「ごめんなーミオニス母さん」

「いいのよ、よく我慢したねえ。はいこれ」

 ギドは写しを受け取り、部屋を出た。




「おい、額が赤くなってんぞ。ぶつけたのか」

 その晩、夕星に指摘され、ギドは自分のおでこを撫でる。若干、こぶになっていた。

「……あー、多分甥っ子とふざけて壁にぶつけた時のだ」

 夕星は舌打ち、布を水に濡らし、夫の額に当てた。

「ガキじゃねえだろ、自分で持て」

「えーやだやだー、夕星さんがやってくれた方が治る」

「馬鹿かテメエ、腕上げんの疲れるだろうが」

「じゃあ寝よ寝よ」

 ギドは夕星の腰を抱え、後ろに倒れ込む。新妻の程よい重さが心地良い。
 薄い胸に頭を押し付ける。白い胸元に垂れるビーズの首飾りが、ざりざりと鳴った。

「お前どんだけガキなんだ」

「よく言われるぜ。あー癒される」
 
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