短編
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国を脅かす予定だった魔王を手篭めに(?)した王子ルートヴィヒは、子供ができたので久々に実家のお城に戻ってきました。
魔王はひょんなことですぐ家を燃やしてしまうので、父である王様は酷にも二人を城から追い出してしまったのです。
とはいえ、王子様はちょこちょこ帰ってはお小遣いをせしめていましたが――。
「え〜わ〜かわいい〜」
揺り籠でくったりと眠る赤子を見て、フリードリヒはかわいいかわいいと連呼し、顔のあたりを触ろうとすると夫のエンディミオに手首を捕まれ捻り上げられます。
「起こすでない」
「えーでもー」
「自分の子供もろくに見なかった者は黙っていなさい」
文句を垂れるフリードリヒをたしなめたのは、彼の父であるフランツでした。
普段は地方で細々と勇者業をしていますが、子を見にやってきたのです。
「あう、父様ー」
危険でなければ放ってくれる夫や、甘やかしてばかりの双子と違い、フランツは息子にとても厳しく、フリードリヒが情けない声でねだっても、ぴしゃりと跳ね除けます。
「あえ、父様がここにいるということは、母様はー?」
「振り切ってきた」
「なんて?」
――その頃、ケーフィンの家では
「勇者さまは、わたくしの勇者さまはどこへ行ったのでしょうか」
「えー、すぐ帰ってくるっしょー。つか俺だって行きたかったのにあの馬鹿父上……」
勇者フランツの妻ラウラは、もうひとりの息子ローレンツに、夫はどこかと、うつろな眼でしきりに聞いています。
「坊や、わたくしのかわいい坊やは、知っておいでではないのですか?」
「えー知らないにゃー。近い近い、怖いからまじやめて」
「男のひとは嘘をつくから、でも苦しんでわたくしに縋るときは嘘をついたりしないのです。だからわたくしは嘘をつかないように、だってわたくしのかわいい坊やですもの」
「短剣こっち向けんのやめてくんない?はーほんと父上はやく帰ってきてよー」
勇者でなければ、美しい見目に油断して刺されていたことでしょう。
ローレンツは奪った短剣を捨て、ため息をつきました。
「名は」
「ええと、ヴァルデマール様と、殿下がおつけになりました」
ちゃらんぽらんな息子がつけたにしてはまともな名前に、エンディミオは安堵しました。
病気なども無いようで、二人はきちんと子供の世話ができているようです。
「何か要るものはあるか、金ならば融通してやろう」
「いいえ、そんな……」
「素直に戻ってきてーって言えばいいのぶぼぎゃっ」
なにを言っても殴られそうな母をルートヴィヒが別室に連れ出します。
「まだ、ヴァルデマール様が、なにを好むのかも、わからない年です、ので」
「あの馬鹿が赤子に何か吹き込もうとすればすぐに言え」
「だ、だいじょうぶ、です、はい」
意外にも気にかけてくれる王様に、エマヌエルはつっかえつっかえ返事をします。
「じゅうぶんに、よくしていただいております。私は魔王で、この子だってこのような――」
「ならばうちに来なさい」
会話に入ってきたのはフランツでした。
「我が家には赤子の世話に慣れた者がいる。ローレンツもお前に会いたがっているようだ」
「貴様、今日まで沈黙を貫いていたろうが」
「その子にはこちらの環境が合うのではないかと思いまして」
「生活水準を上げてから言え。貴様の家には危険人物が多すぎる」
「危険と、まさか王に言われるとは」
どっちがあわよくば同居するかでしょーもない言い争いになったところで、王子様が戻ってきました。
「祖父君がこんなにムキになるのを久しく見た」
「申し訳ありません……私が、きちんと言えれば」
「構わない。お小遣いはエバを経由してせしめたし、もう帰るとしよう」
用事があるときは知り合いの商人戦士が子供をあずかってくれるので、同居の必要性はないし、そのつもりもない二人でした。