短編

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 レフレムに寄る理由もなくなったギドと夕星は、とりあえずの休息のためについ先日までいた寄合町に戻る。

 すぐ近くで爆発火災があったとして、ほとんどの旅人や商人は軍の誘導で避難していた。
 元から寄合町に住んでいる人々は、まだ不安そうな表情をしているが、離れるつもりはないようだ。

「うーんやっぱり同族も別のところに移動したな。まあ子供もいたしな」

 情報を得ようにも、実に人が少ない。兵士たちは忙しそうに走っていた、とても邪魔はできない。

「夕星さん、俺ちょっとその辺見てくるわ。ついでに薬とか買ってくる」

 夕星は火傷も外傷もギドより重いため、長く歩かせる気にはなれない。
 それでも着いてこようとする夕星に、ならばその辺を見てくればいいと、金子(きんす)をいくらか手渡す。

「たいしてないけど、好きなもの買えばいい」

 返答も聞かず、ギドは行ってしまった。
 手の中には数枚の貨幣が。新しい衣服を揃えたり、装飾品を買うことだってできる。
 決してこどものお小遣いではない程度の額だが、夕星は困惑していた。

 というのも、夕星は金を所持した経験がないのだ。ほとんど薄れた過去の記憶をさかのぼっても、やはり無いと言い切れる。

 闘争のために生きてきた魔女に、個人資産などは無かった。装備も衣服も支給されていたうえ、基本的に水と、稀に捧げられる天津甕星への神饌(しんせん)の共有だけで生きていた。

 行軍も単騎であり、馬を失えば徒歩で帰還していた。当時はそれが普通だと思っていた、というかそれしか選択肢がなかった。

「あ……あの馬鹿、どうしろと」

 いくら夕星に社会性が皆無といっても、一応は金というものの重要性は知っているつもりだ、それが無いと普通の人間はどうなってしまうかも解ってはいる。

 そんな大事なものを、なんでも使ってもいいとは、夕星には至難である。
 それにこの金だって、夕星本人が稼いだものではない。ギドひいてはドルネーク家の人々の働きによる結果だ。

「うう、クソっ……」

 人生はじめてのお小遣いにして所持金。何をどのように買うのが適切なのか、夕星にはわからない。真面目に考えこんでしまい、すっかりドツボにはまる始末。



「ただいま〜……どした?」

 食糧や清潔な服、火傷に効く膏薬などを買ったギドが戻ると、馬車の前でしゃがみ込む夕星を見た。
 どこか痛いのかと肩に触れても、うんともすんとも言わない。

「寂しかったー?いやー俺も俺も」

「うるせえええッ!」

 ふざけていれば怒るだろうと構い倒すと、案の定拳が飛んできた。ただし指の間に貨幣を挟むという簡易的な凶器を携えて。

「いったい!お金はそういう使い方しちゃダメっ!」
 
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