短編
□3
18ページ/40ページ
ポチテカの町からは、結局徒歩で帰ることとなった。
商人達がやたらと土産を持たせ、それは驢馬(ろば)の脚がもたつくほど。
キサラはそういった大容量の転送はできず、エマヌエルはギドらに途中まで送ってもらい、王族の土地に入る前に別れた。
(な、なんとか殿下には察知されていないはず……ああでも、勘の鋭いお方だから……)
「おかえりー」
青年の思惑など打ち砕くように、ルートヴィヒ王子は応接間でくつろいでいた。お菓子まで広げちゃっている。
思わず土産物を取り落としたエマヌエルは、床に膝をついて頭を下げ、何度も謝罪を述べる。
いつどこで知られたかなど些末事、王宮とはありとあらゆる情報の集まる場だ。
「ルートヴィヒ様の庇護にありながら、殿下の許可なく外出したこと……まこと反逆罪に、等しい行為と、自認しております。
……どうぞ、なんなりとお裁きを」
「事の次第は、新たな盟主から聞いている。
剛崎将軍は、我々が責任を持つべきことだった。彼を助けてくれたこと、私からも礼を言おう」
王子はエマヌエルの顎をとり、面をあげさせる。
「そも、私に魔王の行動を制限する権利はない」
「そんな、ことは……私はアルヴァの生まれ……この身は、貴方様のものです」
王子がよしよし、と銀髪を撫でてやると、エマヌエルは嬉しいのを堪えるように唇かたく結ぶ。
「それは土産か、歓迎されていたようだな」
「はい、その、皆様によくしていただいて……」
王子はエマヌエルを座らせ、ポチテカからの土産の一部を見る。
手織りの鞄や、精緻な刺繍の施された上着など、エマヌエルの着ている衣服に負けないものを持っているぞと誇示するような品が多い。
「将軍は……あちらに残るだろうな」
「はい、近いうちにご結婚なさいます」
「すまないが聞こえなかった、もう一度」
「剛崎様は、ご結婚が、決まっております。お相手はドルネーク家の、当主の弟の次男様です」
ルートヴィヒは思わず、へえ、としか返せなかった。
アルヴァで最たる武功をあげた将が、まさか家族をつくるとは。
「人生で三番目に驚いた」
「あの、その……け、結婚の宴にその……お呼ばれしておりまして」
両の手指を絡め、もじもじと願いあげるエマヌエルに、王子は難なく許可を出す。
「ああ、好きに。何度も言うが、私に貴君の行動を制限する権利は無い」
「ぁ、ありがとう、ございます……殿下」
実のところルートヴィヒは、魔王が幾度となく屋敷を不在にしていることを知っている。
だがいつかは話すだろうと信じているし、エマヌエルが自分のもとを離れることもないという確信があった。
「貴君は頭は良いが、いじらしいな。獲ろうと思えば獲れてしまう」
「……殿下の、お気に召すままに。それが私の、幸せです」