短編
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神域と現世の間の境界では、ぴよぴよちゅんちゅんと騒がしく、鳥の姿をとった神々が集まっていた。定例の、会議のようなものだ。
毎度ながら裁定者守護役の鵜(ペリカン)がぶおおと鳴いて音頭を取る。
『さて本日の議題といきたいところだが――“蒼き流星”よ、それはなんだ』
巨狼の姿をした天狗は、革でできた大きな球を満足そうに噛んでいる。
『人の子にもらった。いいだろう』
『わざわざ自慢するほどのものか、それは』
鵜は馬鹿にしたが、他の鳥たちはいいなーいいなーと天狗を取り巻いている。
『羨むな、それより……』
『おう子犬、わたしにも遊ばせろ』
鵲が横からくちばしで球をびすっと突き、その拍子に天狗は球を落としてしまった。
急いで球を追う天狗だが、烏や梟といった狩猟本能のあるものたちがつっつき転がしていく。
ころころと止まらない球を面白がって、体躯のある鷺や鵠まで参加しはじめた。
『いい加減に――』
鵜はそろそろ剣を抜こうかと考えた時、どかどかっと大きな蹄の鳴る音がした。
意外にも球遊びの大好きなアバドンが顕現し、他の鳥どもを蹴散らして球を止めた。
踏み潰すことなく、蹄で器用に足元で転がしている。時たま天狗の方に転がし、二神できゃっきゃっと投げあって遊ぶ始末であった。
『以降ッ!この場に玩具その他の類いの持ち込みを厳禁とするッ!』
騎士の姿をした鵜神に怒鳴られ、天狗といえども鼻を鳴らして俯く。
神々の中では最も若い狼を、鴨がのんびりと庇う。
『まあまあ、遊んだのは皆であるし、楽しかったからよいではないかの』
『ここは遊び場ではない。貴様らがそう暢気でいるから、全て後手にまわるのだ』
『そう言うならば、お前さんが表に出るべきじゃな。その比類無き炎火でもって、全て解決してみせいよ』
『“成就した藍”よ、貴様がそれを言うか。因果律をも踏破し、どのような難題すら叶えてしまう貴様が』
『そうじゃの。だからこそ動けぬ苦しみは理解しておる。おるから、遊ぶときは遊ぶべきじゃの』
騎士は剣をおさめ、鵜の姿に戻った。再びぶおおと鳴いて、会議をはじめる。革の球は、喉袋に没収とはならなかった。