短編
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はてさて何の行事だかもさっぱり忘れてしまった王妃フリードリヒは、大人しく椅子に座った。というより座らされた。
参加する貴族らはまだ集まっていないらしく、主人が飽きないようにおやつだ飲み物だと侍女らが差し出してくる。
「うー、今日はとくに暑い気がするー」
「ええ、今年はいつもより早く夏がきているとか」
「すこしだけ、襟をくつろげましょうね」
少々だらしないが、それを咎めることができる者はいない。
しばらくだらけていると、相変わらずきびきびとした動作の立派な王が現れた。
「あー、陛下ー」
起き上がる気力も出ず、椅子に座ったまま、フリードリヒはなんとか王に呼びかける。
妃の乱れた襟元を見たエンディミオは、ぴっぴっと手早く正してやった。
「みっともない格好をするな、慎め」
「あう、はい」
叱られてしまったが、それよりも王に触れられたことが嬉しかった。
「えへへー陛下ー」
味をしめたフリードリヒは、襟も袖もわざと捲くったり、釦を外したりしてエンディミオの前に現れた。
国王の前というに大変な不敬だが、彼の中ではそういった常識は失せている。
直して直してーと、はしゃいでいるフリードリヒは、黒獅子王の怒りを察することなどできない。
「……甘やかしすぎたか」
「う?」
若干後悔しつ、エンディミオは妃の頭頂部に肘を突き落とした。
「ふんッ!」
「おぅっ!?……おお、お……おっ……」
がつんという鈍い音が脳天に響いた後はろくに悲鳴もあげられず、フリードリヒは頭を抱えて床に跪く。
目がちかちかと瞬き、とにかく痛い。
それを助け起こすこともせず、エンディミオは冷たく吐き捨てる。
「反省しろ、馬鹿者が」
「あ、あい……」