短編
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アルヴァ王国王子エンディミオは、無理な侵略で戦死した父王の跡を継ぐ形で、喪に服す間もなく即位した。というのも、敗戦による賠償金が馬鹿にならず、王の葬儀などろくにできたものではなかった。
「あの愚かな父には、最低限の祈りでもしてやれ。あれのために死んだ兵どもの葬儀をした方が、まだ利益になるだろう」
それがエンディミオ王の最初に下した命令だった。豪華な葬儀を取り止め、とにかく賠償金をかき集める。税も上げざるを得ず、家臣達は反対などできなかった。
「戴冠式も先に延ばせ。私は教会宗主と話をつけねばならぬ」
結局、教会に金を借りるはめになったのだ。
さらに宗主の息がかかった有力貴族から、妃を娶ることも決まってしまった。
「陛下、心苦しいとは思いますが、どうか耐え忍んでください……」
「耐えるだと」
宰相は若き王に配慮し、とにかく慰めの言葉をかける。教会との締結と諸侯への賠償により、ひとまずの危機は去った。
だがエンディミオは冷めた目で宰相を見る。
「私はいずれリウォインにも牙をむく。教会の意向なぞ知った事か」
「ですが陛下、まだ御身は即位したばかりで結婚も……まずは御子をなしてから……」
それを聞き、王は思わず舌打ちした。生まれつきの隻腕を不便と思った事は無いが、呪われた王家を不服とする者も多い。エンディミオも、もし従う相手が魔女や呪われた者であれば、反抗するだろう。
(意味があるのか、この腕でーー血を分けた親類もなく、あげくに国を存続する意味は、忌々しいことに教会のため)
いっそ自分の代で終わらせた方が、臣民や自分の子孫のためではなかろうか。そう思う事が増えてきた。
(しかし死ぬならば、戦で死ぬるべきだ)
そういう意味では、父王が羨ましい。アルヴァにとって戦死は何よりの名誉だ。負け戦とはいえ、誇り高き王のまま死ねたのだ。
というに、自分の隣で愛想笑いを浮かべているだけの妃に苛立って仕方ない。
「私がまずすべきは軍備増強だ。この隙を狙うリウォインを警戒する」
「陛下、私の話を聞いていましたか?」
「お前達が何を喚こうが、戦は起こる。案ずるな、王として国を存続はしておいてやる」
家系はわからないが、とはエンディミオは言わずにおいた。